第74話 清華の事情
「本当に意地悪だわ! あんな子が慧君の彼女なんて! 」
清華は、カリカリしながらマンションを出た。
せっかく高いお金を払って慧の住まいを探り当てたっていうのに、慧は知らない間に彼女とよりを戻してしまっていたようだ。
きっと、あの子の差し金なんだわ! 私と連絡とれないように、スマホを買い換えさせたのね!
なんて心が狭い子なのかしら。
彼氏の火遊びなんて、ちょっと目をつぶるくらいがいい女じゃない。
第一、私には夫もいるし、慧君を奪おうなんて、一ミリだって思ってやいないのに!
だだ、私の排卵日の日に、慧君の元気な精子をたっぷり分けてほしいだけよ。
あの子がやりたくて仕方がなかった時に相手してあげたんだから、私にはそれくらい求める権利があるはずだわ。
清華は、駅に向かって歩き出すと、上り電車に乗った。
慧の大学のある駅で下りると、とりあえず近場にある居酒屋をチェックする。
なんとしても、今日中に慧を探さないといけない。
かたっぱしから、清華は電話をし初めた。
『はい、魚匠桜新町店です』
『ちょっとお聞きしたいのですが、そちらで桜花大学のテニススキーサークルの新歓コンパの予約が入っていると思うのですが? 』
『桜花大学前ですか? 今日はご予約いただいておりませんが』
『あら、失礼いたしました。お店を間違えてしまったようですわ』
こんな電話をかけて二十三軒目、三駅隣りの居酒屋鳥一でヒットした。
『はい、ご予約いただいております』
『良かったわ。ごめんなさい、予約の時間を忘れてしまって。何時までだったかしら? 』
『八時でございます』
『まあ、後三十分ね。間に合うかしら? わかりました、ありがとうございました』
清華はスマホを見つめてニッコリ笑った。
「見つけた……」
種つけてもらわないとだわ。
今回こそできるかしら?
珍しく、明日あの人が帰ってくるけど、精子は若い子の方が元気よね。第一、あの人に精子があるのかどうかすら怪しいわ。
私は調べて異常がなかったんですもの。不妊はやっぱり夫が原因だとしか思えない。
きっと、だから検査も拒否してるのね。
狡い人。
私ばかり悪いみたいに親戚に思わせて、私が酷いこと言われても、まるで聞こえてないみたいに無視して。
清華は夫への不満に歯噛みしながら、電車に乗り慧がいるだろう駅で下りる。
きっといい具合に酔っているだろうし、あの子のことだから、少し刺激してあげれば、すぐに乗ってきてくれるはず。
今日こそは!
鳥一の前で待っていると、学生の集団がゾロゾロとでてきた。
その中に慧の姿を見つけて、清華の表情がパッと明るくなる。
二次会へ行くグループ、仲の良い同士で飲みに行く学生、帰る学生などでばらけていく。慧はどうやら二次会へ行くらしい。
「慧君」
清華は、ニコニコしながら慧に走り寄り声をかけた。
「……清華」
慧の表情が、驚きから苛立ちにかわる。
「話しがあるの」
「俺はない」
「あら、そんなつれないこと」
清華の腕が慧の腕に絡まり、自然に胸が押し付けられる。
「酷いわ、勝手に連絡とれなくして。彼女に言われて仕方なくでしょ? わかってるわ。だって、私は慧の特別ですもの」
「まじで止めろ! 」
「松田、二次会……って、この人? 」
拓実が声をかけてきて、慧は清華の腕を引き離す。
「こんにちは。前に一度お見かけしましたよね? 慧君の先輩さん。申し訳ないんですが、ちょっと慧君と話しがあるんです。お借りしてもよろしいかしら? 」
「俺は物じゃないし、俺には話すことはない」
「あら、あなたは私の話しを聞かなくちゃいけないわ。少なくとも、ただの友達じゃないんだから。それなりに……ね? 」
「それは、二人っきりじゃないとまずい話しですか? 」
「まずくはないけど……、なぜ?」
拓実は慧の肩に手を回した。
「こいつの彼女、僕の彼女の親友なんですよね。あなたみたいな魅力的な女性と二人でいかせたなんてバレたら、僕が可愛い彼女にボコボコにされちゃうからです」
「まあ、怖い。乱暴な彼女さんなのね」
「多少」
拓実は先に二次会の場所取りに行っていた理沙に、少し遅れていくからと電話を入れた。
残っていたサークルメンバーにも後から行くと声をかけ、慧と清華を連れてグループから離れた。
「とりあえず、ファミレスでも行きます? 」
拓実が慧と清華の間に立って歩いた。
駅前のファミレスは混んでいたが、十分ほど待つと席に通された。
「で、松田に話しって? 」
「今日、私の家に来て欲しいの」
「えっと、それはつまり? 」
「私とセフレの関係を続けて欲しいのよ」
清華は、全く恥じらうこともなく、ニコニコと言う。
つまりは今日SEXしましょうと誘いにきたと言うのだ。
「無理! 彼女と別れる気ないから。悪いけど、もうそういうのやめたから」
「バレなきゃいいじゃない」
「いや、もうバレてるし。それで一度別れたんだし」
「あら、彼女ができても、奥さんができても、私達の関係は変わらないって、約束してくれたじゃない? 」
「それは、中学の時だろ」
「おまえ、中学の時からこんな色っぽい人妻相手にしてんのかよ」
拓実は、心底羨ましそうにつぶやく。
「ウフフ、だって私、慧君の最初の相手ですもの」
「おま! 」
「あら、本当のことでしょ。あの時の慧君、可愛かったわ」
思い出すように笑う清華に、慧はブスッとしてそっぽを向く。
「そういう関係って、お互いの同意がないとですよね? 昔はともかく、今は本人が無理だと言っているんだから、諦めないとダメなんじゃないかな? 」
「イ・ヤ! 」
拓実は困ったように清華を見る。
「松田にこだわるのは、松田のことが好きだから? 」
「好きよ」
「旦那さんより? 旦那さんと別れて、松田と付き合いたいとか?」
「別れる? なぜ? 」
キョトンとする清華に、拓実の方が驚いてしまう。
「松田が好きなんでしょう? 」
「好きよ。 でも、今の生活を捨てる気はないわよ。私は、月に三日間。二日間でもいいわ。私とSEXしてくれればいいの。だから、慧君だって彼女と別れる必要はないし、たった数日くらい借りたっていいじゃない? 」
「あの、なんで三日間なんですか? 」
「あら、男性の精子は数日生きているらしいけど、排卵日の前後一日すれば確実だからよ」
「確実……って? 」
「妊娠よ」
清華は、事も無げに言う。
拓実もだが、慧も口をポカーンと開けて唖然とする。
「おまえ、俺の子供が欲しいの?」
「慧君の……というか、私の。あなたなら夫と血液型も一緒だし、背格好も見た目も似ているから」
「はあ? 」
「もう、うんざりなの。不妊治療しても子供できないし、夫は協力的じゃない。それなのに親戚は、子供ができないのは私のせいだって決めつける! 」
「あ……ああ? 」
清華は、イライラとテーブルを叩く。
「私が妊娠するまででいいのよ。慧君若いんだから、すぐよ、すぐ! 」
清華が慧にこだわる理由がわかり、拓実も慧も言葉がでなかった。
「松田は、この人との子供が欲しいわけ? 」
慧はおもいっきり首を横に振る。
「だよな……」
「別に、認知して欲しいとかないし、夫にバレない限り、夫の子供として育てるし、子種さえ貰えればいいの」
「えっと……、バレたら? 」
「……私は子供を養えるだけのものはないから、そりゃ面倒みてもらわないとだけど」
あまりの清華の身勝手さに、慧は席を立とうとした。しかし、それを拓実に止められる。
きちんと話し合わないと、いつまでもつきまとわれると思ったからだ。
当然の権利のように要求する清華と、話し合う気すらなさそうな慧を見て、拓実はため息をつきながら席を立った。
「ちょっと、トイレ。すぐに戻るから、帰るなよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます