第71話 生?!

 朝……というより昼前、慧は布団の上で目が覚めた。

 まだ開ききらない目で辺りを見、手で布団の上を探る。

 麻衣子がいないことに気がつき、おもいっきり目が覚めた。

 ガバッと起き上がり、キッチンに目をやるが麻衣子はいない。風呂やトイレも探すがいない。


 スマホを手に取り、麻衣子に電話をかける。

 テーブルの上で着信が鳴った。

 麻衣子のスマホはテーブルに置きっぱなしだったのだ。見ると、そのわきに麻衣子の鞄も置いてある。


「あ、起きたんだ」


 麻衣子が買い物袋を下げて、玄関から入ってきた。


「冷蔵庫、やばかったよ。しおれた野菜に、賞味期限切れの食べ物しか入ってなかった」

「そりゃ、おまえが出てった時のままだからな」

「だね。だから、全部処分して買い物してきたよ。今、ご飯作るから、ちょっと待っててね」


 慧は、麻衣子の後ろに回ると、冷蔵庫に食材をしまう麻衣子に抱きつく。


「こら、卵しまってるから」

「……いなくなったかと思った」

「また浮気したらね」

「しねえよ」


 慧は麻衣子が卵をしまい終わるのを待ち、もぞもぞと洋服の中に手を入れる。


「ご飯作るってば」

「後でいいし」


 キッチンでイチャイチャしていると、ふいに麻衣子が慧を拒絶するように両手で押しやった。


「ちょい待ち! ゴムの買い置きなくなったの? 」


 昨日から、ゴムをつけていないような?


 なんか盛り上がってしまい、ついついそれを指摘せずに事に至ってしまったが、ヤバくない? と今さらではあるかもだが慧に問いかける。


「ゴム? あるよ。でも、いらないでしょ」

「いるでしょ?! 」


 いきなり何を言い出すんだか?!


 慧は、いいじゃんと言いながら続きをしようとする。


「だから! 」

「だって、麻衣子明日くらいに生理くるんじゃないの? 」

「……そうだね」


 麻衣子は比較的生理が正確にくる方で、たぶん明日かあさってには生理がくるはずだ。

 麻衣子の生理周期を理解している慧って、慧らしいと言えば慧らしい。


「まあ、安全日とかだからじゃないけどな」

「えっ?! 」

「ヤバくても、まあいいかなって」

「い……意味がわからないよ」


 慧は麻衣子をギュッと抱きしめる。


「おまえと離れて、マジで無理だった。だから、まあ何かできたとしても問題ないっしょ」

「ちょっと、ちょっと、ちょっと、何かって何よ?! 」

「ガキ? 」

「はい?! 」

「というわけで、中に出していい? 」

「ダメ、ダメ!! 」


 いきなり子供って、何を考えているの?!


「チェッ! 」

「慧君、まだうちら学生だよ? 自分で生活もできてないんだよ? 」

「麻衣子は自立してんじゃん」

「学費は出してもらってるし」


 慧と同棲してから、母親からもらう生活費は返していた。


「とにかく、自分で責任取れないことはしちゃダメ! 」

「今でも五年後でも変わらないけどな」

「変わるよ! 」


 麻衣子にはさっぱり理解できなかった。

 まだ結婚なんて考えてないし、慧のことは好きだけど、慧と子供を作るとか考えられない。

 第一、一ヶ月前に浮気したくせに、今度はいきなり子作りって……。


「慧君、やっぱりゴムは絶対必要だから。結婚前に子供はなし! 」


 でも、それくらい本気だってことだよね?

 なんか極端過ぎてついていけないけど……。


「ちょっと、お風呂してくる……」

「じゃ、俺も」


 一ヶ月ぶりの一緒に入るお風呂。

 やっぱりお互いに洗い合う。

 珍しく、慧が鼻歌を歌いながら麻衣子の頭を洗っている。

 チラッと顔を覗き見ると、いつものムスッとした顔はどこに行ったのか、超絶ご機嫌だ。

 何て言うか、可愛い……。

 もの凄く可愛い!


「慧君、ご機嫌だね」

「別に……。あ、そうだ。今日バイトは? 」

「夕方から政だけど」

「じゃあ、昼間付き合えよ」

「どこに? 」

「DOCOMOショップ」


 風呂を上がり、麻衣子は昼兼朝食を作った。食後、片付けをし、布団を上げた後に、昨晩かけれなかった掃除機をかける。

 パタパタと動き回る麻衣子の後を、慧は手伝うでもなくついて回る。


「慧君……邪魔なんだけど」

「いつ終わるんだよ」

「ああ、出かけるんだっけ? 後少し……って、こらこら」


 慧の手が、スルリと麻衣子の洋服の中に入ってくる。

 麻衣子について回っていたのは、出かけるのを待っていたのではないらしい。麻衣子を抱き上げると、そのままベッドへ直行する。


「こらこら。ねえ、出かけないとなんじゃないの? あたし、バイトの時間になっちゃうよ」


 麻衣子も口では拒否しているようだが、その手は慧の首に回っていた。


「ああ、そうだよな……、でももうちょい」

「だから、時間……」

「わかってる。……なあ、生理中なら中出ししてもいいか? 」

「いやいや、……中出しもダメだ……けど、生理中……とか無理だ……から」

「まあ、ちょいグロいけど、一番安心な時期だろ」

「そ……ういう問題じゃ………ないって! 」

「チェッ……、一度ヤってみたかったのに」

「無理! 」

「ヤバいな、ヤバい! 責任とれよ」

「なんの……責任よ? 」

「色々……。Hするだけなら、セフレで十分だと思ってたんだ。彼女なんて面倒だし、第一、一人としかできないなんて面白くないだろ」

「最低! 」

「うっせ! ……でも、おまえとできなくなって、他としても意味ないっつうか、ヤル気もおきないっつうか……。俺のアイデンティティーをぶっ壊した責任とれよ」


 相変わらず、SEXしている時の方がよく喋る。

 これは、いわゆる告白なのかな?


「そんな……アイデンティティーは壊れた方が……良くない? 」

「おまえ、俺の今までの人生を否定するな……よっと」


 正常位に戻ってきた慧は、麻衣子の身体に大粒の汗をしたたらせる。

 他人の汗なんて、普通は気持ち悪いものなのかもしれないが、自分の上でせつなげに眉を寄せながら動く慧を見ていると、その汗さえも愛しく綺麗なものに思えた。


「キ……スして」


 慧は、乞われるままに唇を寄せた。

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