番外編 箸休めに
第47話 番外編 その後
夏休みが終わって、まだ蝉の声もうるさい中、麻衣子は白のショートパンツを履き、サーモンピンクの半袖Yシャツを羽織り、インナーにシルキーピンクのレース地のキャミソールを着て、大学の構内を歩いていた。
麻衣子を知らない上級生達も、振り返って見るほど魅力的な足を大胆にだし、向かっているのはサークルの部室だった。
「麻衣子、部室行くんでしょ? 私も行く」
理沙が後ろから走ってきた。
理沙はジーンズにTシャツと、かなりラフな格好をしているが、眼鏡を止め、髪を明るめの茶色にかえ、ばっさり短く切っていた。
「理沙、今の時間は……」
お昼休み、この時間の部室は拓実が女子を連れ込んでいる可能性が大きい。
理沙は、気にする様子もなく、部室のドアを開けた。
「たあ君、お待たせ~」
部室の中では、拓実が女子と絡むでもなく、ごくごく健全に雑誌を見ていた。
拓実の横に座った理沙を見て、麻衣子は何か引っかかる物を感じた。けれど、それが何かわからない。
「拓実先輩、お久しぶりです」
「うん、久しぶり。まいちゃんは夏休みは実家に帰ったの? 」
「バイト三昧ですよ」
「松田君の実家に行ったんだよね」
「ああ、まあね。行ったというか連れて行かれたっていうか」
「なに、親公認? すごいじゃん」
「そんな大層なものじゃ……」
慧の実家の人達に麻衣子は好評で、帰る時には夏休み中いればいいのに……と、慧の母親が麻衣子を引き留めまくっていた。慧の母親とはラインの交換までして、ちょくちょく東京に遊びにくるようになり、その度に美味しいご飯をご馳走になった。
「先輩達は、東京でしたよね? 」
「そう。僕は合宿全参加だから、ひたすら忙しかったよ」
「全参加ですか……」
さすが金持ち……。
慧の家もそうだが、この大学は比較的裕福な家庭の子供が多い。麻衣子のように、生活のためにバイトしまくりなんて学生のほうが少ないようだ。
羨んでも仕方ないので、麻衣子は荷物を部室に置くと、チラリと拓実達を見た。その時、たまたま目に入ったペンダント。
あれ、ペアっぽい?
今まで、理沙はアクセサリー系は全くといっていいほどつけていなかったのだ。それが、珍しくダブルリングのついたペンダントをしており、それが麻衣子が感じた違和感の原因らしい。
そして、それよりやや大きめのダブルリングのペンダントを拓実もつけていた。
ああ、なるほど……。
麻衣子は、口うるさく聞くことはせず、二人に軽く声をかけてから部室を後にした。
すると、すぐになるライン。
理沙:こら、ツッコミなさいよ! 気づいたんでしょ。
麻衣子:先輩とヨリ戻したんだよね? おめでとう!
理沙:やっぱり気づいたか。浮気したら骨一本折る覚悟があるって言うからさ。
拓実先輩、まさに命がけの恋愛だな……。
麻衣子:拓実先輩の無事を祈るよ。
理沙からVサインのスタンプが届き、ラインは終了する。
麻衣子が学食に顔を出すと、美香達が学食でたむろしていた。
「沙織、今きたの? 」
「まあね。昨日遊びすぎちゃって。朝までクラブにいたから」
沙織は大きな欠伸を隠すことなくする。
沙織のみが眠そうだから、別口で遊びに行ったのだろうか?
「彼氏に文句言われないの? 」
「彼氏? 誰それ? 」
みな、えっ? という顔で沙織を見る。
「佐々木さん……だっけ? 付き合ってたよね? 」
「佐々木さん? ……ああ! あんなの瞬殺で別れたよ。夏休み前だって」
「そうなの? 」
てっきり続いていると思っていたが、一ヶ月ももっていなかったとは……。
「多英は? 」
付き合うまでの話しは聞いていなかったが、矢野の先輩にアプローチしていたような。
多英はVサインを出す。
「夏休みでゲットしたよ」
「やったじゃん! 市島さん? けっこう年上だよね」
「すっごい大人だよ」
「だからかあ、最近誘っても全然きてくれないの」
沙織が不満気に言うと、多英は左手薬指にはまった小さな石のついた指輪を弄る。
「だって、マジだもん。結婚も考えてるし」
「結婚ッ!! 」
まさかの多英の口から結婚の言葉がでるとは?!
みな、開いた口が塞がらない。
「だってさ、付き合うってなった時にさ、敦さんが自分の年齢的に結婚を考えられない相手とは付き合わないって言われたからさ、じゃあ結婚する! って、言っちゃったんだよね」
「それって、結婚をネタに断ろうとしてたんじゃないの? 」
美香の言葉に、麻衣子も沙織もうなずく。
「かもね。でもいいじゃん、付き合えたわけだし。だから、遊びはおしまいなわけ。貞淑な妻になるんだから」
「あんたが貞淑? 」
一番多英とつるんで遊んでいた沙織が、あり得ないでしょ? と言わんばかりに多英を突っつく。
「なんなら、敦さんの友達と合コンする? 」
「うーん、止めとく。まだ遊びたいし。堅いのはパス」
沙織はまだまだ遊ぶつもりらしい。まあ、それもありなのかもしれない。
「なんか、夏休み挟んだだけなのに、みんな色々あんだね」
「他人事みたいじゃない。まいだって彼氏と同棲までして、実家に行ったんでしょ? 」
「なにそれ? 初耳なんですけど! あ、だからか、なんでまいの隣りに男子が座ってんだろって思ったんだよ。もしかして、あれ? 」
「なになに? そんな男がいるわけ? 」
多英達がくいついてきて、麻衣子は大まかに話して席を立った。
あまり根掘り葉掘り聞かれたら恥ずかし過ぎる。
「じゃあ、先に教室戻ってるから」
麻衣子は早々に教室に退散し、慧がいるか教室を探した。
慧はいなかったが、慧達がいつもいた席で、松本知恵が一人お弁当を食べていた。
美和が退学してしまったから、一人になってしまったようだ。
声をかけようとも思ったが、麻衣子が声をかけるのも違う気がして止めた。
麻衣子は慧にラインした。
麻衣子:今どこ?
すぐに既読がつく。
これもちょっとした変化かもしれない。
慧:うんこ
それはトイレでいいでしょ!
麻衣子は、しょうがないなとスマホを閉じる。
今、麻衣子の席の隣りには慧の荷物がぐちゃっと置いてある。その荷物を片付けて、麻衣子は教科書を開いた。
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