第46話 慧の告白
目の前にいたのは、小田愛実。慧のセフレの一人だ。
「あなた、松田君の彼女なんだって? 」
「あ、はい」
「ふーん、意外だなあ。彼女ができつたって聞いてたけど、地元にも連れてきちゃうくらいなんだあ。ほら、松田君ってあんまり女の子に執着しなさそうなタイプだから、一緒にいない時はお互い勝手にしよう……みたいな感じかと思ってた」
それは、彼女は彼女、セフレはセフレで割りきって付き合うタイプだと思っていた……ってこと?
まさか話しかけてくるとは思っていなかったため、麻衣子はすっかり戸惑ってしまう。
自分の彼氏だから、二度と手を出さないで! みたいなことを言うべきなんだろうか?
でも、一応正式に付き合う前のことだし、それを今言うのは違う気がした。
「えーと、カシスオレンジですよね。できました」
愛実はお酒を受けとると、席に持って行くのではなく、その場で飲み始めてしまう。
「松田君ってさ、あんな真面目な顔して、実は女子にモテてたんだよ」
「そう……なんですか? 」
「うん、そう。琢磨って、知ってる? 」
「ああ、はい。昨日おうちにお邪魔しました」
「あれもモテるんだけどさ、琢磨狙いみたいなふりして、松田君に相談もちかける女子とか、実際は松田君狙いってのが多かったんだよね。ほら、真面目そうな金持ちのボンボンに見えるからさ」
愛実は、女子の内情について暴露し始める。
慧が彼氏ありにしか手を出さないから、彼氏がいるふりをして近づいた子や、彼氏がいるけど、慧といい仲になったらのりかえようとした子がいたとか……。
今日来ている子の中にも、いまだに慧を狙っている子がいるから……と、気をつけたほうがいいみたいな忠告までした。
「おまえ、さっきからなに話してんだよ? 」
慧は、チラチラと愛実が麻衣子のところに酒を頼みに行ったのを確認していたが、なにやら話しこみ始めたのを見て、何気ないふりを装いやってきたのだ。
「えーっ、別にぃ~。松田君の武勇伝を女子目線から話してただけだよ~」
「くだんねえ話しすんなよ。」
「そう? ね、ライン交換しない? あたし、彼女のこと気に入っちゃった」
「おい……」
慧は勘弁しろよとばかりに愛実を睨み付ける。
現彼女と前セフレが仲良くライン交換なんて、頭痛の種以外のなにものでもない。
「ああ、いいですよ」
「おい……? 」
愛実は、さっさと麻衣子とライン交換すると、東京でも遊ぼうねと席に戻っていった。
愛実と話してみて、あまり悪いイメージを受けなかったし、慧に執着してるとかもなさそうだった。セックスフレンドとフレンドが、彼女の中では同義語というか、友達の彼女的なノリで話しかけてきたように見えた。
「彼女、東京にいるんだってね」
「みたいだな」
「今度遊ぼうって誘われちゃったよ」
慧の頬がひきつり、そうなんだと言う口調はわずかにうわずっていた。
「なんか、慧君の友達で知り合いが増えたね」
「くだらねえ奴らばっかだけどな」
「そういうこと言わない。慧君はなんか頼みにきたわけ? 」
もちろん、麻衣子と愛実の会話が気になってやってきたのはわかっているが、麻衣子はあえて知らんぷりをする。
「いや、まあ、そろそろ帰ろうかなって。おまえ、飯は食えた? 」
「うーん、ちょっとね」
「ちょっと待ってろ」
慧は皿に麻衣子の好きそうなおかずを山盛りに持ってくると、カウンターの中に入ってきた。
「元、部屋借りるぞ」
麻衣子を引っ張って、調理場の奥にある階段から、二階の元の部屋に上がった。
「ほら、食え。今、飲み物持ってくるな」
元の部屋は正直キレイとは言い難く、食事を食べる場所を確保するのも大変そうだ。
とりあえず、座る場所と食べ物を置く場所を片付けていると、モスコミュールを持った元が上がってきた。
「ごめんなさい、勝手に上がっちゃって」
「いいって。手伝ってもらえて、マジで助かったし。汚ねえ場所で悪いけど、ゆっくり食べてよ。慧がさ、店だと色んな奴に話しかけられて、なかなか飯も食えないだろうからって。あいつも、人のこと考えるようになったんだな」
なにか、口調が慧の保護者のようで、麻衣子はクスリと笑ってしまう。
「マジで。あいつ、超自己中だから。人を人と思ってないし」
「誰が自己中だよ! おまえは下で働け! 」
慧がやってきて元の頭を叩くと、元はへえへえと言いながら立ち上がった。
「おまえ、俺の部屋ではヤんなよ」
「誰が、こんな汚ねえ部屋でヤれっかよ」
「ばーか、シーツは毎日かえてるよ」
慧にシッシッと追い払われながら、元は店に戻っていった。
公園のトイレの裏でも平気でヤるような慧が、部屋の汚さを気にするとも思えなかったが、ベッドを目の前にして、珍しく慧が麻衣子に手を触れようとしなかった。
そのおかげで、麻衣子は夕飯をしっかり食べることができた。
「おまえさ……」
「……? 」
肉じゃがを美味しそうに頬張っていると、慧が何やら話しにくそうに声をかけてきた。
散らばっている雑誌をペラペラめくりながら、視線は雑誌にはむかっていない。もし、その雑誌の内容を知っていれば、けして手には取らないだろう。熟女物のエロ本だったから。
「あのさ、昨日から色々俺の昔の話しとか聞いたじゃん? 」
「うん……? 」
「……呆れたりした? 」
慧の耳が今までになく真っ赤になっている。
「まあ、少しは……」
「……だよな。普通、ひくよな」
慧は凹んだように頭を抱えてしゃがみこむ。
麻衣子は今までの慧を思うと、今さら何をショックを受けるのかと、逆に不思議に思ってしまう。
「あのさ、昔の……っていうか、麻衣子と知り合うまでの俺は、女は恋愛の対象じゃないというか……」
「えっ? まさかのカミングアウト? 」
麻衣子が心底引き気味に、笑顔も氷ついてしまう。
慧は、一瞬なんで麻衣子が引いたのか、意味がわからないというようにしていたが、すぐに理解して慌てて言い直す。
「そうじゃない。俺がホモな訳あるか! 」
「まあ……、そうだよね」
「だから、好きだ嫌いだで女を抱いてこなかったって話しだ。対象が女で、穴さえあれば良かったっていうか、相手は誰でも良かったんだよ。ヤりたい時に、ヤれる相手がいれば、相手にこだわりはなかった。」
うん、そうなんだろうけど、どんどん最低な人間になっていくよ。
麻衣子の言いたいことが伝わったのか、慧はイライラしたように頭をかく。
別に自分を陥れたいわけではなく、麻衣子に伝えたいことがあるだけなのだ。
ただ、不器用過ぎるだけで……。
「とにかくだ! 今もヤりたい時にヤりたいと思うけど、それは誰でもいいわけじゃない。おまえと毎日ヤりたいし、家だろうが外だろうが、麻衣子とヤりたいんだよ」
これは、告白だろうか?
「つまり? 」
「いつでも、どこでもヤらせろ!
」
まさかのそっち?
「間違った! いや、間違ってもないけど。おまえ以外とヤるつもりはないからなってこと。だから、おまえは俺を拒絶すんなよ」
「それは無理」
「えっ? 」
麻衣子はニッコリと笑う。
どうやら、麻衣子が思っていた以上に、慧は麻衣子のことが好きだということがわかった。耳だけでなく、全身真っ赤なのは、酔っぱらったせいばかりではないだろう。
今まで慧の要求を拒めなかったのは、慧に好かれている実感が少なかったからだし、もし拒んで他に走られたらと思うと、最終的には受け入れてしまっていた。
「あのね、やっぱり表でやるのはなしなの。基本、布団がないところはイヤ! あと、親や友達にばれるようなとこもイヤ」
「つまり? 」
「それ以外はウェルカムってこと」
慧は、麻衣子の肩を抱き寄せてチュッとキスをする。
毎日するのも、一晩に何回もするのも、慧の絶倫に近い性欲の相手をすることは、そんなに苦痛ではない。多少、寝不足にはなるが。
「我慢できっかな? 」
「とりあえずは、一日我慢して。明日帰ったら、いっぱいしようね」
「よし、朝一で帰るぞ! 」
とりあえずはマンションに帰るまで我慢してくれそうだし、少し進歩したかな?
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