第41話 大人の○○

 とんだ合宿になってしまったが、なんとか二泊三日無事に過ぎ、麻衣子と慧はマンションに帰ってきた。


 部屋に入ると、留守電が点滅していた。

 固定電話は慧が最初から使っていた物で、用件が入っているとすれば、慧しかない。


「留守電、入ってるよ」

「ああ、たぶん家だな」


 慧は、面倒くさそうに留守電を再生した。


『三件のメッセージがあります。八月十日午後三時二十分、ピーッ、慧、携帯にも連絡してるでしょ。電話出てちょうだい。八月十一日午後七時三分、ピーッ、慧、いい加減にしなさい! 夏休みくらいは帰ってきなさい! 八月十一日午後十時四十五分、ピーッ、仕送り止めるわよ! 電話ちょうだい! 』


 同じ女性、たぶん慧の母親らしき声が録音されていた。


「お母さん? 」

「だな。ウザッ! 」

「電話しなよ」

 慧は、ベッドに横になったままスマホゲームをしており、電話をかける素振りすらない。

 麻衣子は二人分の荷物を出して、洗濯機を回しながら、慧の様子を見る。


 麻衣子のようにバイトに明け暮れている訳ではないのだから、いつだって帰れるだろうに、全く帰る様子がなければ、いつ帰るとも聞いていなかった。

 地元には、慧のセフレもいるだろうし、帰られるのは正直不安しかない。でも、親に生活させてもらっているのだから、帰るのが当たり前だとも思う。


「ねえ、帰った方がいいんじゃない? 」

「おまえは? 」

「あたし? 休みお盆の三日しかないからな。今年は無理かも。母親には言ってあるよ」

「ふーん。お盆の三日って、十三から十五? 」

「そう」


 今日も夕方から居酒屋のバイトが入っていて、休みは明日から三日間だけだった。


 慧はスマホの電話帳を開くと、履歴から自宅と書いてあるところをタップする。

 どうやら、電話するつもりになったらしい。


「ああ、俺」

『慧? あんた電話も出ないで、夏休みでしょ! 帰ってらっしゃい』

「合宿行ってたんだよ。今日帰ってきた」

『そうなの? でも、電話くらい……』


 慧は、しばらくスマホを耳から離して、お小言をやり過ごす。


『慧、聞いてるの? 』

「ああ、聞いてる」

『で、いつ帰るのよ? お兄ちゃんはとっくに帰ってきてるのよ』


 お兄さんがいるとは初耳だった。

 慧の性格上、我が儘な一人っ子だとばかり思っていたが。


「明日帰る。でもバイトあるから十五日には帰る」


 どうせなら、麻衣子の休みは一緒に過ごして、バイトのある時に帰ってくれればいいのに……と、不満に思いながらも、お盆だから仕方ないかとも諦める。


『たった三日間? まあ、いいわ。帰らないよりはマシね』

「で、もう一人連れて帰るから」

『もう一人って? 』

「見りゃわかる」

『もしかして…彼女? 』


 含み笑いのような母親の声に、慧はイライラしたようにスマホを耳から離した。


「きるぞ! じゃあな」


 スワイプして、通話を終了させる。

 会話を聞いていた麻衣子は、まさかね? と思いながら、ベッドに腰かけて慧に話しかけた。


「誰……連れて帰るって? 」

「おまえ以外いるのか? 」

「いやいや、待とうよ。なんであたしが慧君のうちに? 」


 慧は、麻衣子をベッドに引きずり込むと、麻衣子の身体をまさぐった。


「俺が三日間も我慢できると思うか? 」

「そこは我慢するべきかと……」


 慧に脱がされるままに、麻衣子は素直に身体を開いていく。

 基本、慧の要求を断ることのない麻衣子に、慧はたまっていた性欲をさらけだす。

 といっても、合宿中禁欲だったわけでもなく、シャワールームから始まり、ペンションの部屋でも数回やっているのだから、たまるというほどたまっているわけはない。

 それでも、思いのままに麻衣子を抱けたわけじゃないから、慧的には修行のような生活だったと思っていたのだ。


 もしあの時、シャワールームについて行かなければ、誰とも知らない男達が麻衣子を……。

 

 慧は、自分の想像に苛立ちを感じ、麻衣子の柔らかい胸に顔を押し当てた。今のところ、これは自分だけのものだ。それを実感するように、慧はただ麻衣子に抱きつき、頭をグリグリとこすりつける。あまりにいつまでも先に進まないものだから、麻衣子はクスクス笑いながら慧の頭をはたいた。


「髪の毛、こそばい」


 麻衣子が慧を誘うことは今までなく、どちらかというと慧からだったり、なんとなく流れで……という感じだったのだが、この時は初めて麻衣子からおねだりしてみた。


「慧君……しないの? 」


 今まで何回となくしているのだが、恥じらった感じに言う麻衣子に慧はゾクゾクっと身震いする。


 これはこれでいい!


 慧的には、麻衣子の表情、口調がクリティカルだったらしく、さらに麻衣子に色々言わせたくなった。そこで、最近ネット通販で購入したブツのことを思いだし、ベッドの下にしまっていた箱を取り出すと、カチッと電源を入れる。


 ウィーンというモーター音が響き、麻衣子はうっすら目を開いた。


「エッ? なにそれ? なんでそんなのがあるの? 」


 いわゆる大人の玩具が慧の手に握られていた。


「まあ、いいから」


 ★★★


 慧が満足した頃には、麻衣子はグッタリとして動くこともできなかった。


「……慧君……、なんで? 」

「これか? 」

「ヤダ! 目の前に出さないで!

 何でそんなの持ってたの? 」


 誰か違う人とも使ったのではないかとショックを受けながら、麻衣子はそれから目をそらした。


「拓実先輩がさ、絶体女の子は喜ぶから使ってみって。通販で買ってみた」

「またくだらない話しを……」

「なんだよ? 凄い感じてたじゃないか? 買ったかいがあったな」

「しばらく禁止! あれじゃ、慧君とする前に意識とんじゃう! 」


 しばらく……という辺り、麻衣子も満更ではなかった証拠なんだろう。


「本題がどっか行っちゃったじゃない。慧君の実家になんであたしまで行くわけ? 」

「だから、俺が我慢できないから」


 まさか、親のいる家で麻衣子を抱こうとしているのだろうか?

 そこまで非常識ではないよね?

 と思いながらも、カラオケボックスだろうが海の家のシャワールームだろうが、遠慮なく麻衣子にHを仕掛けてきた慧だ。


 非常識かもしれない……。


 麻衣子は、自分の彼氏の性的衝動に、いささかの不安を感じた。

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