第40話 美和 退場
拓実の吹いた笛の音と、パトカーのサイレンと光りで、ほとんどの部員は目を覚まし、何事かと部屋から出てきた。
優は警察に事情を話していたため、拓実が部員達を食堂に集める。数えると、全員が集まっており、酔いと眠気でウトウトしている者もいれば、興味津々でバッチリ目が覚めてしまった者もいた。
美和はそのどちらでもなく、若干蒼白い顔色で無表情を貫いている。自分の企みはバレていないと思っているのだろう。
万が一ナンパ男達から話しがでても、知らないと言い切れば証拠はないはずだった。
「実は、一年女子の部屋で強姦未遂事件が起きた」
拓実は、美和から目をそらすことなく話し出した。
みな驚きでざわつき、女子達は怖いと抱き合う。
美和だけが、舌打ちをしたように見えたのを、拓実は見逃さなかった。明らかに反省のない表情に、内密に処理するべきではないと判断した。
「今日の午前中、徳田麻衣子さんと林理沙さんが地元の男達に声をかけられたんだが、その男達が犯人だった」
「それなら、徳田さんが部屋に手引きしたんじゃないですか? 」
シレッと言う美和に、慧は飛びかかりそうになり、麻衣子と理沙に止められた。
「あいつ、ぜってえ許さねえ! 」
拓実は慧を手で制すると、美和の前に笑顔で歩み寄った。
「渡辺さん、誹謗中傷はいただけないな」
「あら、そんなつもりはありません。だって、松田君にも色仕掛けしたような人ですから、きっと男好きなんですよ。たぶん、その男達にも……」
「色仕掛けかあ? 僕が色仕掛けしようとした時には、泣いて拒否られたけどな。まいちゃん、何気に純情なんだよね。きっととか、たぶんなんて言葉は君の主観でしかないし、真実を歪めて主張しないほうがいいよ」
「でも、私といい仲だった松田君を寝取ったような女で! 」
美和は、同情を得ようとしたのか、自分の味方をしてくれるだろう女子達の方を見ながら涙を流した。
「いつ、俺がおまえなんかといい仲になった! ふざけんなよ! 寝取ったって、意味わかんねえ。こいつは俺が初めてだったんだぞ。バージンが男に色仕掛けするとか無理だろ。バージンの男好きって、どんなだよ」
「ちょっと慧君! 」
麻衣子は真っ赤になって、バージンを連呼する慧の口を塞ごうとする。
「へえ、麻衣子って松田君が初めてだったんだ。ウワッ! じゃあ、泥酔した麻衣子に無理やり何回も迫った松田君って、かなり鬼畜じゃん。あんた、麻衣子と付き合えて良かったね。下手したら強姦魔で捕まっててもおかしくないよ」
相変わらず遠慮なくズバズバ言う理沙に、麻衣子は全身から湯気が出るんじゃないかというくらい真っ赤になる。
男子は羨望の眼差しを慧に向け、女子は初めてを暴露されてしまった麻衣子に同情した。
「今まで彼氏とかいなかったの?」
「そうよ! 大学までは手もつないだことなかったんだから」
「ってことは……、キスも? 」
「当たり前でしょ! もう、知らない! あたしの話しはおしまい! 」
当たり前じゃない場合もあり得るのだが、とりあえずみなに麻衣子が予想外にウブであることが知れ渡り、女子なんかは特に麻衣子に好意的な視線を送った。
「純情なふりをしているだけよ!
みんな騙されてる! 」
美和は喚き散らした。
目はつり上がり、鼻の穴は膨らみ、口の端から泡を吹いている。あまりに醜い表情に、部員達は引き気味になる。
「じゃあ、これが証拠だ。捕まった男達が海の家で話していたもので、たまたま録音できたんだ」
拓実は慧から預かったスマホを出すと、録音した音声を流し始めた。
食堂はシーンと静まり返り、みな男達の会話を聞いていた。
会話が終わると、女子生徒から酷い! あの女はだれ? などと声が上がった。
「こんなのでっちあげよ! 」
「なぜ? この声は、あいつらのものだよ。警察にも音源のコピーは渡してある。あと、君が理沙に渡したビールも渡したよ。話しに出ていた睡眠薬が検出されるかもね」
本当は、警察には音源のコピーも睡眠薬入りのビールも渡してはいなかった。美和の反応次第では、渡さなければならなくなるかもしれないが。
「嘘よ! 私はそんなことしない! 第一、あの時海の家にはサークルの人達はいなかったじゃない! こんなの録れるわがないのよ! 」
美和は言ってしまってから、慌てて自分の口を押さえる。
「そうだね。これは海の家の中で録音したんじゃなくて、外のシャワールームで録ったからね。あそこ壁が薄くて、丸聞こえなんだよ」
「私じゃない……。私じゃない……」
美和はしゃがみこんで呟きだし、拓実と理沙でそんな美和を食堂から連れ出した。
後日談ではあるが、このことは大学側と美和の両親に知らされ、美和は大学を自主退学した。また、美和の両親に泣きつかれた麻衣子は、二度と関わらないことを条件に、警察に訴えることはしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます