第38話 策略

 ビーチを探すと、拓実達はすぐに見つかった。彼らも、昼御飯を食べようと、麻衣子達を探していたらしい。理沙は海に入りコーラを洗い流したようだった。


「拓実先輩、ちょっと話しがあって……」


 そこへ部長の大西優もやってきた。


「なんだ、どうした?真面目な顔して」

「優先輩も、ちょっと話しがあります。ペンションに戻って聞いてもらえませんか? 」

「なんだよ? マジで真面目な話しか? ちょっと待ってろ」


 優は辺りを見回すと、同じ三年の男子二人に声をかけに行った。


「こっちはあいつらに頼んだからいいぞ」


 優に拓実、理沙も連れてペンションに戻り、優の部屋に集まった。


「まず、これ聞いてもらえます?

 」


 慧はスマホの音量を最大にし、みんなに聞こえるようにして、さっきの会話を再生した。


 みな、黙って聞いていたが、会話が終了すると、優は苦虫を潰したような顔でうめいた。


「なんだこいつら?! 最低だな。この女もなんだよ? 意味わかんねえ」

「この声……渡辺さんだよね? 」


 理沙が、震える声で言った。


「渡辺って、最近入った? 」

「顔見たわけじゃないけど、たぶん……。」


 麻衣子がうなずくと、理沙が美香から聞いた話しを優と拓実に話した。

 そして、美和が慧に横恋慕していることも。


「やっかいな奴だ。こいつら捕まえて、締め上げて女の確認させないと、自分じゃないとか逃げそうだな」

「そうだな」

「そしたら、男数人を部屋に仕込んどいて、実行犯で捕まえるか。で、縛り上げて、渡辺に面通しさせっか」

「渡辺にバレて、男達に連絡とられてもまずいから、女子達と一年男子には内緒だな」


 優と拓実がどうやって捕まえるか、話し合っている間、理沙はプルプル震えていた。

 恐怖ではなく、怒りでだ。


「あいつら、ぶっ殺す! だれがツルンペタンだ! 」


 なるほど、そこに激怒ですね。


「たあ君、茶髪のカツラ! 」

「そんなもん、いきなり言われても……」

「あるぞ。宴会用に一応用意したのがある」

「優君、グッジョブ! 私が麻衣子のふりする」


 優君?

 まさか、ここも幼馴染みだったりするのかな?


 その疑問は後で聞くことにして、麻衣子は理沙の洋服の裾を引っ張った。


「理沙、危ないよ! 誰か男子にカツラかぶってもらった方がいいって」

「大丈夫! あいつらボコらないと気が済まない! 殺す価値もないから、半殺しで勘弁してやる」

「でも、危ないって。拓実先輩、なんか言って下さい! 」

「まあ、りいちゃんが本気だしたら、そこらの男子は敵わないから大丈夫じゃないかな。それより、睡眠薬飲まされないようにしないと。眠りこけたら、いくらりいちゃんでもどうにもならないからね」

「そうだな。渡辺から飲み物や食べ物は受け取らないようにしよう」

「とりあえず、僕がまいちゃんと部屋を交代するよ。で、りいちゃんと男達を迎え撃つ。あとはベッドの下と、ユニットバスに数人仕込んどこう」

「ハハ、部屋の交換か。なんか当初の予定通りだな、拓実」

「優! 」


 拓実は優にシッ! と口止めする素振りをし、なぜか慧もあらぬ方を見ている。


 どうやら、男連中で事前に話し合っていたようだ。たぶん麻衣子を慧の部屋に誘導し、拓実は理沙の部屋に忍び込む算段だったのだろう。

 それを踏まえての部屋割りだったわけだ。


「じゃあ、色々準備をしよう! 優は茶髪のカツラや縛り上げるロープ……なかったら結束バンドでもOKだ。親指縛ったら動けなくなるしな。僕は、二年と三年の武道系の奴らに声をかける」


 拓実は早口で言うと、シラーッとした目で見ている理沙から視線をそらしながら、バタバタと部屋を出ていった。


「松田君、どういうことかな? 」

「あ……と、麻衣子の荷物運ぶかな? 先輩のと交換しないとだし」


 慧も部屋を出ていき、部屋には男子は優のみになった。


「優君? 」

「まあ、いいじゃん。あいつも必死なんだよ。理沙に戻って欲しくてさ。だから、ちょっと協力した」

「なら、女遊び止めろって話しだよね」

「あいつ、病気だからな。まあ、長い付き合いだからわかってるだろ? 」

「でも……、もし彼女に戻ったら、またボコボコにしちゃうもん。前はたまたま肋骨にヒビくらいですんだけど、もし折れた肋骨が肺とかに刺さったら……」


 なんか、不穏な内容の話しをしているような?しかも、肋骨にヒビでとか言ってるし。


「あの…。優先輩は理沙達と昔から知り合いなんですか?」

「ああ、二人とは小学校から一緒。昔、俺超ジャイアンでさ、拓実とか苛めてたんだよね。そしたら、こいつにおもいっきりシメられて。で、ジャイアン卒業したわけ。二つも下のチビに敵わないって、衝撃だったよ。しかも、女の子だし。二人とは、それからの付き合い」


 理沙はなぜか、テレテレと照れている。彼女の中で、強いのは褒め言葉らしい。

 そう言えば、拓実も理沙に助けてもらったって言ってたけど、苛めッ子は優だったわけか。


「あの、肋骨折ったってのは? 拓実先輩の肋骨が折れたの? 」

「付き合って、初めて浮気された時にさ、ボコッたら……ね。だから、別れたの。ハハ、あのまま付き合ってたら、確実にたあ君はあの世の人になってるね」


 やっぱり不穏だ!


 ただ、そんな話しを聞いていると、理沙は本当に強いのだろうと推測できる。


 でも女の子だし……。


 多英達とのカラオケで、サラリーマンに無理にされそうになった経験から、あんな恐怖をもし味わったらと思うと、理沙が麻衣子の代わりをすることは容認できない。


「理沙は強いのかもしれないけど、やっぱり……。あたしのために怖い目に合うのは……」

「まいちゃんは優しいね。でも大丈夫。こいつが敵わない相手なら、警察呼ばなきゃ無理だし、まあよっぽどなら男全員叩き起こすから。さすがに二十対二は勝つだろ。」


 優は、麻衣子の頭をポンポンと叩くと、支度しなきゃなと部屋を出ていった。

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