第34話 交際後のある日の夜
自力で歩いているか微妙な麻衣子を支えつつ駅に向かい、混んでいる電車に乗った。
麻衣子の軟らかい身体と、甘い香りに慧はムラムラしてきてしまう。混んだ電車の中で抱き合うように立っていると、つい尻に手がいく。普通なら痴漢と騒がれる行為も、自分の彼女なんだから、なんの遠慮もいらない。
「麻衣子、下りるぞ」
慧のマンションで同棲を開始したから、前の麻衣子のアパートと違い、駅からもあまり歩かなくてすむ。しかも、エレベーターつきだから、階段の心配もない。
麻衣子を支えつつ歩きながら、マンションの部屋にたどり着いた。
明日から夏休み。夏休みの間、一日中ヤりまくってやろうなどと、恐ろしいことを計画していた慧だが、麻衣子は通常の居酒屋バイト以外に、短期のバイトまでいれてしまっていて、なかなか一日家にいることはなさそうだった。
明日も、朝からバイトだと言っていたし、麻衣子のバイトの日程表を見た時に、慧の不機嫌な顔がよりムッツリしたのに、麻衣子は気がついていない。
ったく、バイト減らせって言ったのに、夏休みだからって増やしやがって。だから、家賃なんかいらないって言ったんだ。
麻衣子をベッドに転がすと、麻衣子は幸せそうにムニャムニャ言っている。
酔っぱらって桃色に上気した頬、トロンと下がった目尻、口角が上がって微笑んでいるような口元、少し低めの鼻さえ、なんか無性に可愛く見える。
「やべ、酔い過ぎだな。こいつが可愛く見えやがる」
メイク落としシートで、麻衣子の化粧を落としてやる。なんだかんだ尽くすタイプだということに、慧本人すら気がついていない。
メイクを落とすと、前ほど顔がかわるわけではないが、幼い感じになった。麻衣子には決して言わないけれど、何気に慧は麻衣子の素顔の方が好きだった。少し幼い表情が眉を寄せながら喘ぐ姿は、征服欲が刺激された。スタイルの良い身体とのアンバランスさも良かった。
つまるところ、慧は十分に麻衣子に惚れていたのだ。
唇にキスすると、カクテルの甘い香りがし、舌を入れるとちゃんと舌を絡めてきた。最初の時の無反応とは違う。
しばらくベッドで抱き合って舌の感触を楽しんだ。身体の凹凸が、妙に身体にフィットする。
以前の慧なら、キスはセックスするための前戯みたいなもので、キス自体を楽しむことはなかった。
悪戯に抱き合うことも理解できず、セックスの前段階として流れのように淡々と行っていたのだ。
彼女を作ったこともなく、セフレとのみの情事であったから、そこに愛情を感じることも、感じさせる必要もなかった。いざ彼女ができた時に、愛情の示すことに言い様のない気恥ずかしさを感じるのは仕方がないのかもしれない。
拓実みたいに、誰彼構わず好きだとか可愛いねとか言えたら……と、たまに考えることがある。
いや、誰彼構わずではなく、麻衣子に対してなんだが。
そうしたら、もっと笑顔が見れるんじゃないかとも思うのだが、性格的に無理だった。
けれど、そんな時の慧は、いつもの不機嫌な表情はそのままに、耳だけ赤くなっていることに、本人は気がついていない。
その耳の赤さを見て、麻衣子がクスリと笑っていることには、もっと気がついていなかった。
しばらくまったりとキスをしながら麻衣子の体温を感じていた慧だが、抱き締めることで幸せを感じることと、セックスをしないということはイコールにはならない。
というわけで、今度は麻衣子の身体をまさぐりだす。
麻衣子の反応を確かめつつ、さらに指をその細いウエストに滑らせた。
「さ……慧君? 」
酔っぱらって朦朧とする意識の中、今回はちゃんと慧だと認識しているようだ。
けれど、少し不安にもなる。
もし慧がいない場所で泥酔し、慧だと思って違う男に股を開いてしまうのではないか? ……と。
( 慧のことを拓実だと思ってHした )前例があるからこそ、絶対ないとは言い切れない慧だった。
「おい、目を開けろよ」
モゾモゾと這い上がりながら、麻衣子の顔を覗き込む。
「ヤる時は顔を見ろ」
ちゃんと相手を確認しろという意味で言う。
麻衣子がうっすら目を開けて慧の顔を見たのを確認してから、麻衣子を強く抱きしめた。
汗だくになった麻衣子は、アルコールがかなり抜けて、一回戦が終わった時には、泥酔状態からは抜け出していた。
「慧……君。大好きだよ」
最近麻衣子はHで満足した後に、慧の耳元で甘い言葉を囁くようになっていた。これが、彼氏彼女になってからの最大の変化かもしれない。
そんな時、いつも慧は耳を赤くして麻衣子にキスした。
麻衣子の口からそんな言葉達が紡がれるのは、きっと慧からの返答を期待しているんだろうなとわかっているが……。
優しいキスが、次第に熱のこもったものにかわっていき、二回戦へと突入する。
こうして夜は更けていき、麻衣子は万年寝不足状態に陥るのであった。
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