第33話 飲み会
「この間サークルに入った渡辺美和さんです。はい、拍手~ッ! 」
新歓コンパ以降サークルに入った学生の紹介から飲み会が開始した。
麻衣子、慧、理沙、他に二年男子三人が同じテーブルについていた。そして、自己紹介を終えた美和が同じテーブルに戻ってくる。
つい一時間前、号泣していたはずの美和は、何事もなかったように、慧の隣りに腰を下ろす。
「松田く~ん、緊張しちゃったよ。自己紹介なんかするんだね。恥ずかしかったァ」
甘い声を出し、慧に寄り添うようにすり寄った。
どういう神経をしているのか、さっぱり理解できず、慧は特に返事もせずにビールをあおった。
「松田君と同じ一年です。先輩達、よろしくお願いしま~す」
慧と親しいアピールを欠かさない美和だ。二年の先輩達も、慧関係でサークルに入ってきたんだろうと勘違いする。
「先輩達、もしかして徳田さん狙いですか? ほら、私達と違って、徳田さんってモテそうだもの」
「私達の中には、私も入ってるんだよね? 」
理沙がわざと心外だと言わんばかりに、会話に入ってくる。
そんなつもりじゃ……とつぶやきながら、ねえ? と慧に同意を求めるように笑いかけた。
「先輩、渡辺さんを挨拶回りに連れていってあげて下さいよ。新入部員は、新歓コンパの時やらされたじゃないですか」
「え、ああ、そうだよね。じゃあ、渡辺さん行こうか? 」
ビール瓶を美和に持たせ、いってらっしゃいと理沙は笑顔で手を振り、二年男子の一人がサポート役として美和についていく。
美和は嫌そうに席を離れた。
「松田君、もうちょいはっきり嫌だって言わないと! 」
「これ以上ないくらいイヤな顔してるつもりだけど」
「松田君はいつも不機嫌そうだから、本当に嫌なのかわかんないんだよ。あなた、基本無表情だし。彼女とその他大勢は差別しなきゃだよ。全く、たあ君と松田君は真逆な性格なくせして、根本は一緒だよね。エブリバディウェルカムなとこ」
「俺はあそこまで酷くねぇよ。ってか、渡辺をウェルカムした覚えねえし」
慧は不機嫌な顔のまま、ビールジョッキをあおる。
「麻衣子、おまえそろそろ酒ストップ! また、泥酔したら連れて帰るの大変だからな」
「まだ大丈夫なのに……」
麻衣子は、プーッと頬を膨らませながらモスコミュールを一口飲む。
「なに、二人とも同じ方面なのか? 」
「やだ、先輩! 同じ方面どころか、帰る家すら同じですから」
「どういうこと? 」
「理沙! 」
なにも同棲していることを言って回らなくても……と、理沙を嗜める。
「この二人、同棲してますから」
「まじで?! まじか~ッ! 」
二年の先輩達は、明らかにショックを受けていた。麻衣子を狙っているという美和の言葉は当たっていたらしい。
こいつ、最近モテ過ぎじゃねぇか? 最初はせいぜいヤリ友が関の山みたいな尻軽女にしか見えなかったのに。
麻衣子がフェロモンを振り撒くようになったのは、自分が麻衣子を開発したせいだとは思わず、麻衣子がモテていることが納得いかない様子だった。
「いつから? どういう経緯で?
」
「新歓コンパからですよ。麻衣子が泥酔して、松田君が送り狼になったってわけです」
「そんな前から? なんだよ、最近の徳田さん、いいなあって思ってたのになあ。クソ、松田のくせに生意気だな」
「なんすか、それ」
「お~い、みんな聞いてくれよ~! 」
二年の先輩は、酔っぱらったせいもあるのだろうが、麻衣子と慧の関係をいろんな席に行って言いふらし始めた。
慧との関係を先に噂にしてしまおうと思っていた美和にとっては、忌々しい限りである。
美和が席に戻ってきた時には、麻衣子と慧の周りには二人の関係をヤジリにきた先輩達で溢れており、美和は口元だけの笑顔を浮かべながら、麻衣子達と向かい側の席についた。
「酔っぱらったふりして、わざと松田君を誘惑したんだ……」
美和がボソッとつぶやき、涙を一粒こぼす。
「渡辺? さん」
演技っぽい雰囲気に、この子は何を言い出すんだろうと、辺りが静かになる。
「酷いなあ。私と松田君、いい雰囲気だと思ってたのに。大学入った時から側にいて、デートだってしたじゃん」
笑顔のまま、ボロボロと涙をこぼし出す美和に、先輩達は修羅場か? と面白半分見守ることにする。
「松田君、デートなんかしたの?
」
理沙が言ったことは麻衣子も聞きたかった。
慧と二人で出掛けたのは、この三ヶ月弱の間で、ラブホテルとビアガーデンのみ。正式な彼女になってからは一度もないのだから。
「するかよ! こいつと二人っきりになったこたねぇよ」
「ウソッ! 一緒に図書館行ったじゃない。それに、いつも私のこと優しく見つめるし、授業中だって寝たふりしてくっついてきたり……。お弁当だって、食べたそうにしてたから、作ってきたし」
「図書館は、レポートの資料探しに行っただけだし、寝たふりじゃなくて本当に寝てんだよ。たまたま腕とか当たったかもしんねえけど、おまえにくっつくわけねえだろ。弁当に至っては迷惑だ。俺は素人の作った飯は食わねえんだよ。おまえ、マジでうぜえ! 」
「いいんだよ、わかってるから。松田君、徳田さんに誘惑されて、つい魔が差しちゃったんでしょ?
責任感が強い松田君だから、徳田さんと付き合うことにしたんだよね? 」
「松田君に責任感なんてあったっけ? 」
理沙が茶々を入れ、美和にきつく睨まれる。
「私は気にしないよ。たった一回の浮気、許してあげる」
なんか、いつの間にか麻衣子が浮気相手になっているし……。美和はいい雰囲気から、浮気を許すような関係に昇格もしている。
思い込みが激しいというより、これは一種の病気ではないだろうか?
「マジでおまえ意味わかんねぇ」
話しが通じない美和に、慧のイライラが爆発してしまう。
回りで聞いていた先輩達は、どちらが正しいことを言っているかわからず、中には美和に同情する者までいた。それくらい、美和の中では思い込みが真実に昇華していたのだ。
そんな数名の美和を支持した先輩達が、話し聞くからおいでと優しく支えながら美和を別のテーブルへ連れていった。
「あれって、病気だよね? 」
麻衣子もそうだろうなと思ったが、うなずくことは避けた。
美和の周りには女の先輩が集まり、ひどいだなんだ盛り上がっている。あの話しを信じるというより、男子に人気が出てきた麻衣子をこけおろしたいだけかもしれなかった。
麻衣子達の関係をからかうために集まった先輩達も、なんか変に白けてしまい、自分達のテーブルへ戻っていった。
「また、酷いのに目をつけられたね。さすが松田君! 」
「何がどうさすがなんだ? 」
慧のピッチは上がり、ほぼイッキのようにジョッキが空いた。理沙は、瓶ビール一本、慧のジョッキに注いだ。ついでに、自分もおかわりし、麻衣子にもモスコミュールを頼んでくれた。
それから三人で飲み、飲み会が終了する時には、麻衣子はまた泥酔状態になっていた。さすがというか、理沙はほろ酔い程度だし、慧はかろうじて真っ直ぐ歩けるぐらいには酔っ払っていた。
「アハハ、新歓コンパの再来だね」
「こいつ弱いんだから、バカバカ飲ますなよ。連れて帰るこっちの身にもなれっつうの」
慧は麻衣子の腕を首に回させ、腰に手を回してなんとか歩かせる。
「松田、なんなら代わってやってもいいぞ! 」
「俺、俺! 俺が代わる! 」
先輩達が、冷やかしなのか本気なのかわからないヤジをとばす。
「間に合ってます。じゃ、お先に失礼します」
「松田君、次は合宿でねー」
理沙が手を振り、その後ろで美和が冷たい怒りのこもった視線で麻衣子と慧を見ていた。
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