第27話 学食にて 美香VS美和

 男子二人に女子二人。

 確か、男子は佐久間俊さくましゅん多田直也ただなおや、女子は渡辺美和と松本知恵まつもとちえだ。美和はやはり、きつい視線を麻衣子に注いでいた。


 麻衣子の左横に佐久間が、向かい側に他の三人が座る。


「なになに、たまたま? 徳田さん、松田と同じサークルなんだよね? 徳田さんと昼飯食べれるなら、俺も同じサークル入れば良かった! 」

「バカじゃね? 」

「なんだよ、松田。徳田さんといくら同サーだからって、並んで食事するなんて、図々しい奴だな」

「うるせーよ! 」


 慧は、シッシッと追い払うように手を振る。

 男子二人は定食を、女子二人はお弁当を食べ始めた。


「おまえら、なんでここにくんだよ。あっちも開いてんだろ」

「なんだよ、松田も徳田さん狙いなわけ? 」

「バカか! (狙いもなにも付き合ってんだよ! )」


 慧はどんどん不機嫌が加速していく。

 麻衣子は、慧の友達がいるから、矢野に会う約束をしたことを喋れなくなってしまった。


 慧は一番に定食を食べ終わり、麻衣子の食べ終わるのを待つ。佐久間と多田が交互に話しかくてくるため、麻衣子はなかなか食事が進まなかった。


「松田君、いつも学食じゃん。たまにはお弁当作ってきてあげようか? 」


 美和が慧に話しかけた。


「いらねえよ」

「美和、料理上手なんだよ。私のは母親の手作りだけど、美和のは自作なんだから」


 美和のお弁当は色彩も豊かで、見た目から美味しそうだった。


「好きなだけだから、美味しいかどうかはわからないよ。ほら、独り暮らしだと、栄養も偏っちゃうしさ、たまには手作りもいいかなって。ね、明日作ってこようか?」


 慧は、チラリと麻衣子を見ると、麻衣子の足を蹴った。


「おまえ、弁当とか作れるの? 」

「あたし? 」

「やだ、徳田さんは料理とかしなさそうじゃん」

「アハハ、卵焼きも焦がしそうだよね」


 明らかな悪意を感じたが、麻衣子は愛想笑いを浮かべながら、大人な対応をする。


「どうかな? 渡辺さんみたいにキレイには無理かもね」

「あれ、まいは料理得意だよ。朝からきちんと作る派だもんね」


 後ろから腕が伸びてきて、麻衣子の定食の唐揚げが、美香の口の中に収まる。いつの間にきたのか、美香が真後ろに立っていた。


「美香」

「お待たせ~。ほら、あんたは向こう! 」


 美香は佐久間を追い払うと、麻衣子の隣りに座ってサンドイッチにかぶりついた。


 美香はイラついていた。

 美和達にもだが、慧にもだ。


 沙織達がこなかったため、美香は一人学食にきたのだった。そこで、麻衣子達と美和達が同じテーブルについているのを見て、さりげなく近づいてみたら、さっきの会話が聞こえてきたのだ。


「まいの料理は美味しいよね、松田? 」


 美香はわざと慧にふる。


「知らね」


 食べたことがないという意味ではなく、美味しいか美味しくないかは知らないという意味で言った。自分の彼女の料理がウマイなど、恥ずかしくて言えるか! というのが本音だ。


「松田君が知るわけないじゃん。あれ? もしかして三条さんって、西高出身じゃない? 」


 美和が、わざとらしく手を叩いて言った。


「そうよ」

「やっぱり! 私、東三高。隣りの地区だよね? 」

「みたいね」

「三条さん、だったから、もしかしてって思ってたの。やっぱり三条さんだったのか」

「なになに、有名って? 」


 知恵も会話に入ってくる。クスクス笑いが鼻についた。


「え~ッ、それは私からは言えないよォ。ねえ? 」


 美和は、わざとらしく美香に目配せをしてみせる。

 麻衣子が心配そうに美香を見ると、美香はおかしそうに笑っていた。


「彼氏がヤンキーとか、中絶しまくってるとか、そういう噂でしょ。バカバカしい」

「そうだよね。私も、全然信じてなかったけど。噂って怖いね」


 その噂を、今披露しようとしていた本人が言うか?


 美和は、表情は笑っているが、目の芯が笑っていない。美香は逆になぜか楽しそうに美和を見ていた。

 佐久間と多田は、そんな二人のやりとりに関わりたくないと思ったのか、用事があるからと、席を立って行ってしまう。


「あたしも、あんたのこと知ってたよ。噂じゃないけどね」

「へえ、な三条さんに知られてたなんて、びっくり。私なんて、な女子高生だったんだけどな」


 美和の言い方には、いちいち刺があった。


「地味? あんたが? ああ、見た目はそうだよね」


 いかにも優等生っぽい美和と、派手派手の美香。交わる場所はなさそうである。


「私なんて、三条さんに比べたら地味も地味。面白みもない高校生活送ってたし。徳田さんも三条さんみたいな感じだったの?いかにもだったっぽいよね」

「それは、あたしの噂みたいにヤンキーと付き合って、中絶とか平気でするような女子高生だったかってこと? あんたも、たいがいに失礼なこと平気で言うね」


 美香は特に怒るでもなく、椅子を揺らしながら、呆れたように美和を見る。


「やだ、そんな意味じゃないよ。ほら、私達とは世界が違うっていうか。ねえ、松田君? 」


「知らねえよ」


 慧は、うざそうにそっぽを向く。


「ね、美和、そろそろ教室戻ろうよ」

「知恵、先戻ってていいよ。私、三条さんともう少し話したいし」


 知恵はそう? と、席を立って学食を出ていった。


「あたしは、あんたと話すことないけど? 」

「三条さん、冷たいなあ。同郷じゃないの。で、なんで私のこと知ってたの? 」

「あんたの言う、ヤンキーな彼氏から聞いたのよ。あいつ、地元で友達多いからさ、ゆたかって友達に相談されたみたいでね」


 美和の表情から初めて笑顔が消えた。


「ふーん、私はそんな人知らないけどな。たぶん、三条さんの勘違いだね。私とは別人だよ」


 美和は早口で言うと、席を立って慧の横にくる。


「松田君、教室戻ろうよ。学食、食べ終わったんでしょ」

「なんで松田があんたと行くわけ? 一人で戻りなよ。それに、あたしと話したいんじゃなかったっけ? 」

「三条さんの勘違いだってわかったからもういいわ」

ねえ? 」

「そうよ! 松田君、行こう」


 美和は美香を睨み付けると、慧の腕を引っ張った。

 慧は、うっとおしそうにその手をふりほどく。


「俺、こいつに用事あるから」


 慧が麻衣子を指差すと、美和は敵対心を隠すことなく麻衣子をも睨み付けた。


「こんな派手な人、松田君には似合わないんだから! 松田君、騙されてるだけだよ。どうせ、身体使って松田君をたぶらかしたんでしょ? 見た目通りね! 」

「おまえ、いい加減にしろよ」


 いつもの不機嫌そうな慧の顔から、本気でイラついているような鋭い眼光を美和に向けた。


「麻衣子、行くぞ」


 麻衣子はまだ半分しか食べていない学食をそのままに、慧に引っ張られて立ち上がる。


「あ、片付けないと……」

「あたし、やっといたげるよ。じゃ、後でね~」


 美香がこの場の雰囲気に似合わない明るい声で言い、ヒラヒラ手を振った。

 慧は怒りで沸騰しそうになりつつ、麻衣子を引きずるように学食を後にした。





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