第25話 お付き合いが始まりました
風呂から上がると、慧はコンドームのあった棚をゴソゴソと探り、ペンダントを一つ見つけてきた。
ユニセックスのプレートペンダントで、たまに慧がつけていたのを麻衣子は覚えていた。
「これもやる」
「なんで? 」
「高校のときに買ったやつ。飽きたから」
慧は、麻衣子の首にペンダントをつけた。
「でも……」
こういうのって、ペアのやつが多いよね?
「首輪。外すなよ」
首輪? 慧君の言ってた首輪って、ペンダントのことだったの?
「いや、いいよ。これ、誰かとペアなんじゃないの? 」
ペンダントを外そうとした麻衣子を、呆れたように慧は見た。
「おまえバカ? そんなもんやるわけないだろ。おまえ、俺のこと何だと思ってるわけ? さすがにそこまで非常識じゃないぞ」
慧は、麻衣子をベッドに押し倒すと、自分と同じ香りがする髪の毛に顔を埋める。
「セフレと毎日ヤらねえし、一緒に住もうなんて言わねえ。プレゼントも買おうなんて思わねえよ。言わなくてもわかれよ」
「あの、慧君? 」
顔が見えないから、慧の気持ちが見えない。
それって、あたしがセフレじゃないってこと?
「顔見たい! ね、顔見せて」
慧は、怒ったような表情で麻衣子の髪から顔を上げた。耳が真っ赤になっているが、表情はあいかわらず不機嫌なまんまだ。
「あたし達、付き合ってる……のかな? 」
「知らね! 」
「どっち? 」
ここを曖昧にしたら、また後悔してしまうと思ったから、麻衣子は起き上がって慧に詰め寄った。
「おまえはどっちがいいわけ? 」
「ずるい! 慧君はどうしたいの? 」
慧は麻衣子ウエストを抱き寄せると、唇を塞いで舌を押し入れてきた。
麻衣子の手が慧の首に回り、おもわず流されそうになったが、あえて麻衣子は慧から離れた。
「あたしは付き合いたい。彼女になりたい」
やっと、言えた!
慧は不機嫌な表情のままそっぽを向き、でもしっかりと麻衣子のウエストを抱き締めている。
「なら、それでいいんじゃね? 」
慧は、顔まで真っ赤になっているようだ。
「コンドーム! 」
麻衣子がいきなり立ち上がって、コンドームの箱を取り出してきた。
「なんでコンドームが部屋にあるの? 」
麻衣子は、言わないで、聞かないで後悔することは止めようと決めた。
この際、どんなに面倒がられても、全部聞いてしまおう。
「ハアッ? コンドーム? 」
付き合う付き合わないの話しから、なんだっていきなりコンドームの話しになるのかわからず、慧は思わず素に戻ってしまう。
「最初の時はまあ、しょうがない。嗜みって言ってたよね。この部屋にあるのは? 他の女の人もくるから? 」
「バカか? なら、一緒に住もうなんて言わねえよ。いつかおまえがくるかもって思ったからだな……」
本当は、前に買ったときに三箱セットになっていて、一箱は麻衣子と最初にした時に使いきったやつだった。だから、本来は麻衣子のための買い置きではないのだが、とりあえず残った二箱は誰とも使っていなかったのだから、麻衣子のために取っておいた……と言っても、嘘にはならないだろう。
麻衣子は胡散臭げにしていたが、未開封の物を開けていたのは確認していたから、素直に納得することにした。
「じゃあ、セフレ。セフレいるよね? 前に一回カラオケボックスで会ってた」
「あれは……」
「セフレだよね? 」
麻衣子に詰め寄られたが、慧は無言を貫いた。
「あたしと付き合っても、拓実先輩みたいに他の女の子ともするの? もしそうなら、やっぱり一緒には住めないし、この関係自体なくした方がいいかもしれない」
麻衣子は、強気を貫いた。
もし慧にそれでもいいよと言われたらと思うと、震えそうになる声を押し隠して、慧と向かい合う。
ここはきちんと向かい合わないといけない場面だと判断し、慧は観念することにした。
「いや、ヤらねえよ。なんなら、ライン打つか? 」
慧は、愛実にラインを打った。
慧:彼女できた。
すぐに愛実の既読がつき、返信が返ってくる。
愛実:マジで? おめでとう!
じゃあ遊べなくなるね。彼女と仲良くね。
慧:ああ、おまえもな。
慧はラインのやりとりを麻衣子に見せた。
意外とあっさりした内容に、麻衣子の方が戸惑ってしまう。
セフレって、そんなに簡単にサヨナラできるものなの?
「こいつ彼氏いるし、俺はただの暇潰しだしな」
「この人だけ? 」
「他のは、俺は連絡先知らないな。彼氏持ちばっかだから、暇な時に連絡くるみたいな感じ。アドレスにも登録してないし。なんなら、電話番号変えるか? 」
「いや、そこまでしなくても……。知らない番号は出ないでくれたらいいし」
「でねえよ。で、他には? 」
慧はすっかり開き直ったようだった。
もう顔も赤くないし、いつもの不機嫌そうな慧に戻っている。
うっとおしいって思われたのかな?
麻衣子は少し不安になりつつも、もうないよと首を横に振った。
「じゃ、俺からもいい? 」
「なに? あたしはセフレなんていないよ」
「バカか? わかってるよ。まあ、クソみたいな奴らには触られまくったみたいだけど、俺以外とはヤってないよな」
「言い方! 」
麻衣子は顔を赤らめて慧を叩いた。
「ピアス貰ったサラリーマン、あれどうすんの? 」
矢野のことをいきなり言われて、麻衣子はポカンとしてしまった。なぜ、慧がピアスのことまで知っているのか分からなかった。
「三条? おまえの友達からのリークだ。俺にハッパかけてきやがった。この間の合コン、ちょこちょこ写真付きでラインしてきたぞ」
そういえば、美香はしょっちゅう写メを撮っていた。
「なんでそんなこと? 」
「おまえのことちゃんとしろって、煩かったぞ。他の友達とつるんでたら、いつか危ない目に合うから、おまえに首輪つけとけってさ」
それで首輪? 首輪の意味が違う気もするけど……。
麻衣子はネックレスを触る。
「心配したんだろ? で、リーマンはどうすんだ」
「断るよ。ちゃんと、会って断ってくる。ピアスも返す」
「会うのかよ……」
慧は不機嫌そうな顔をさらに歪ませる。
やきもちをやいてくれているんだろうか?
そうだとしたら、なんか……にやけてきちゃう。
「おまえ、何笑ってんだよ」
慧が麻衣子の首に腕を回し、ベッドに引きずり倒した。
最初はついばむようなキス。
お互いの唇を甘噛みし、優しく吸う。
舌を入れ、歯茎をなぞり、ゆっくりとお互いの舌を絡めていく。
こんなキスの仕方すら、最初は知らなかった。全部が全部、慧が初めてで、慧の真似をして覚えたのだ。
恋人になって初めてのHは、今までで一番気持ちよかった。
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