第19話 初めてのラブホテル

「遅い……! 」


 慧は、スマホの時計とにらめっこしながらつぶやいた。

 今日は麻衣子は十時までのバイトのはずだが、すでに十一時をこえている。


 まさか、途中で襲われたりしてないよな?

 スカートなんか履くから……。


 前に一回バイト終わりにラインがきたことがあったから、一応ラインもチェックするが、麻衣子からの連絡はない。


 バイトが延びたんかな?

 にしても、連絡くらい寄越せよな!


 慧はイライラしながら、スマホ片手に玄関に向かった。

 麻衣子の外履き用のスリッパをつっかけて玄関を開ける。

 あまりに遅いから、迎えに行こうとしたのだ。

 外に出ると、麻衣子が歩いてやってくるのが見えた。

 立ち止まり、スマホをいじっている。慧のスマホに着信はないから、別の友達にでもメールしているのだろう。


 何だよ、帰ってきやがった!


 麻衣子がアパートを見上げたような気がして、慧は慌てて部屋に戻って鍵をかける。

 布団にスライディングして、スマホゲームを起動させた。


 外階段を上がってくる音がし、麻衣子が帰ってきた。

 慧は無関心を装い、麻衣子の様子を伺う。


 帰ってきた麻衣子が、今日は誕生日だとのたまいやがった! バイト先でお祝いしてもらった?

 なんだよ、それ?!

 聞いてねぇぞ!

 もう、今日終わるじゃねぇか。


 慧は、スマホで近所のラブホテルを検索した。

 歩いて行ける距離に二軒あるようだった。


 よし、今日はラブホだ!


「ちょっと出かけるぞ」


 慧が起き上がって言うと、麻衣子は着替えようとしていた手を止め、キョトンとして慧を見た。


 クソ!

 こいつなんかレベルアップしてるよな。化粧落としたら地味顔のはずなのに、なんか可愛くなってやがる。

 今すぐヤリてー!


 慧はムラムラしてきた気分を落ち着けて、財布をポケットに突っ込んで、スマホの地図を再度チェックする。


 よし、場所は覚えた!


「どこに? 」

「ラブホ」

「一人で?! 」

「バカか? あんなとこ一人で行ってどうすんだ。デリヘルでも呼べってか? おまえと行くんだよ」

「なんでわざわざ? もったいないよ。化粧落としちゃったし」


 ラブホテルに行くのに消極的な麻衣子にイラつきながら、早く麻衣子を抱きたい慧は、さっさと布団をたたんで出かける準備をする。


「行くぞ」


 慧は、麻衣子の腕を掴んで部屋を出た。

 

 ラブホテルには迷わずついた。


「どっちがいい? 」

「どっちがって言われても、ラブホテル初めてだしわかんない」


 そりゃそうだ。


 帰宅途中のサラリーマンに横目で見られ、イラついた慧は麻衣子の手を引っ張って目の前のラブホテルに入った。


 中にはタッチパネルがあり、部屋の内装が見れるようになっている。平日だからか、ほとんどの部屋が空いていた。


「どれがいい? 」

「どれって……」


 またもや悩み出した麻衣子に舌打ちすると、慧は適当に部屋のパネルを押した。


「宿泊でよろしいですか? 」


 いきなり人の声がして、麻衣子は驚いて慧の後ろに隠れた。

 よく見ると、タッチパネルの上に小窓があり、そこが開いて人の手だけ見えた。お互いに顔を合わさないようになっているみたいだ。


「ああ、宿泊で」

「前金で六千円になります」


 慧は現金を払うと、鍵を受けとる。部屋は三階で、エレベーターを降りてすぐだった。

 部屋に入ると、麻衣子は珍しそうに部屋の中を見て回っている。


「おい、風呂入るぞ」


 慧は風呂にお湯を入れ、麻衣子を呼んだ。

 麻衣子の部屋のユニットバスと違い、かなり広い風呂で、ジェットバスまでついている。二人で入って、足を伸ばすことができ、ゆっくりとくつろげた。


 風呂を出ると、広いベッドに二人で大の字になる。


「お風呂、気持ち良かったね」

「きて良かったろ? 」


 慧は麻衣子の上に覆い被さる。


「今日は我慢せずに声出せよ」

「バカ……」


 風呂にゆっくり浸かったせいか、飲んできた酒がまわったせいか、麻衣子の肌はピンク色に染まり、妙に色っぽく見えた。

 また、声を押さえずに感じるままに反応する麻衣子に、いつも以上に興奮を覚える慧だった。


 コンドームを追加注文し、三回目に突入する。


「たまにはラブホもいいな。また来ような」

 三回目が終わった時、麻衣子を抱き締めて慧が言うと、すでに麻衣子は寝息をたてていた。


「マジかよ? 」


 徹夜でヤリまくろうと思っていた慧は、あり得ないだろ? と麻衣子を揺さぶった。

 しかし、麻衣子は熟睡モードに入ってしまっている。

 どんなに叩いても揺らしても起きやしない。


 慧は諦めて、麻衣子を抱き枕にして寝ることにした。

 こんなにしっくりくるのは、麻衣子だけだ。麻衣子を抱き締めれば、すぐに眠りにつくことができる。

 匂い、体温、感触、ウエストのクビレ具合、全てがパーフェクトだ。


 これがなくなったら、マジで不眠症になるかもしれない……。


 昼間、美香が言っていた言葉を思い出す。


 リーマンに持ってかれる前に首輪つけとけって、今さら告れとか言うのかよ?

 わかれよ、覚れよ!

 毎日抱いてんだから、今さら他に行くとかナシだろ?

 ……。

 ったく、めんどくせーな!


 慧の腕枕で気持ち良さそうに寝ている麻衣子を見て、大きくため息をついた。


 めんどくせーけど……。

 首輪ねぇ……?


 慧は麻衣子を抱き締めて眠りについた。

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