第16話 合コンのお誘い
「まい、ねえねえ! 」
麻衣子が教室に入ると、すでに来ていた美香が、麻衣子の腕を引っ張って耳元に口を寄せた。
「どう? 彼氏がいいって言えた? ってか、またスカートに逆戻りってどうした? 」
麻衣子は、久しぶりにまたミニスカートを履いていた。
「もういいかなって。昨日美香と話して、あたしがしっかりしとけばいいってわかったし、ほら、もう暑いしさ」
本当は、慧の反応を試したかったのだ。またミニスカートを履いた麻衣子に、何か一言あるのではないかと思ったから、一番のミニスカートを引っ張り出して慧の目の前で着替えてみた。
慧はチラッと見ただけで、今日は講義の前に用事があるからと、先に出てしまった。
「もういいって、松田君が? スカートが? 」
麻衣子はそれには答えず、曖昧に笑った。
「まいがいいならいいけどさ」
美香は、すでに教室に来ていた慧に目を向ける。慧は、数人の男子と女子二人と楽しそうに会話していた。
麻衣子もそんな慧に目を向け、自分にもあんなふうに話してくれればいいのに……と、嫉妬に似た感情を覚えてしまう。
そんな時、麻衣子のスマホの着信が鳴り、見るとラインが入っていた。
矢野:おはよう(^-^)/ 今日もいい天気だね。もう大学かな? 僕はお仕事中。今日もバイト入ってるのかな? 夕飯食べに行こうと思ってます。またね(^o^)/~~
麻衣子も美香の前で返信した。
麻衣子:おはようございます。もう大学です。今日もバイトです。お仕事頑張って下さい(^-^)v
「誰? 」
「バイト先の常連さん。昨日、ライン交換したの」
「なになに? まいに男の影? 」
後ろから多英が顔を出してきた。
「そんなんじゃないって」
「どんな人よ? 」
美香も興味ありげに聞きながら、視線は何故か慧に向いていた。
「普通の地味なサラリーマンだよ。M&Kとか言う会社の営業やってる人」
「凄いじゃん! 大手だよ。エリートじゃん。合コンやろうよ、合コン! 」
「いや、バイト先の常連だから、この間みたいなノリでやられちょうとちょっと……」
多英はキョトンとしながら、何か悪かったっけ? と考える仕草をしたかと思うと、いきなり爆笑しだした。
「あたしだって人見るよ。いきなり絡んだりしないし。ほら、スマホ貸してよ」
多英は麻衣子からスマホを取り上げると、いきなりラインを初めてしまった。
麻衣子:こんにちは、まいの友達の多英です。いきなりですが、合コンしませんか?
「ちょっと! 勝手に……」
すぐに既読がつき、返信がくる。
矢野:多英ちゃんですか? 初めまして。矢野と言います。コンパですか? いいですけど、むさ苦しいサラリーマンですけよ? それでもいいんですか?
麻衣子:ウェルカムです(^3^)/
矢野:何人集めます?
麻衣子:三人で!
「ね、今週の土曜日の夜は暇? 」
「暇は暇だけど……」
「美香は? 」
「あたし? あたしは合コンはちょっと。沙織と三人じゃないの?
」
「沙織は彼氏できたから、しばらく遊べないって言われた。」
沙織に彼氏とは初耳だった。
それはともかく、多英と2×2の合コンはキツイと、麻衣子は美香の腕を引っ張った。
懇願するように見上げると、美香はしょうがないなとうなずく。
「今回だけね。土曜日は空いてるよ」
さっそく多英がラインを打つ。
麻衣子:今週の土曜日は早いですか?
矢野:一応同僚に声かけてみます。返事は今晩できると思います。
「だって! 」
多英は、やっとスマホを返してくれた。
「もう! 勝手に約束しないでよ。矢野さんに迷惑でしょ」
「いいじゃん、ピチピチの女子大生と合コンなんて、なかなかないっしょ」
多英は全く悪びれたふうもなく、合コンだァッ! と盛り上がっている。
「沙織に彼氏って、いつのまに? 」
「ほら、佐々木さんだよ」
意外な名前に、麻衣子は思わず大声で聞き返してしまう。
「佐々木さん?! って、あの佐々木さん? 」
カラオケボックスで、最初に麻衣子にちょっかいを出してきた方だ。
「そっ! あれ。なんか、まいがいなくなってから、意気投合したみたいよ。今じゃ、男んちに入り浸ってて、今日も大学出てくるかな? 」
確か、沙織は林とも関係があったはずで、その同僚の佐々木の彼女になるって、お互いにどういう神経をしてるのか、麻衣子にはさっぱりわからなかった。
結局、多英が言っていた通り、沙織は講義には顔を出さず、午前中の授業は終了した。
「じゃ、コンパ決まったらラインちょうだい。じゃ、あたしデートだから、バイバイ! 」
多英が帰り支度をして言う。
「多英も彼氏? 」
「違う、ヤリ友! 」
そんなことを大声で……。
さすがに慣れたけど、回りから同類と見られているのが微妙だ。
「まいは? 」
「あたし、部室に用事ある。その前に図書館行くけど」
「そう、じゃまた明日ね」
今日の午後は休講で、午前中のみで終了だったため、教室に残って喋っている人もいれば、多英のように終わると同時に帰る人達もいる。
麻衣子は美香にバイバイと手を振ると教室から出て行き、残った美香はさてとと教室の前に歩いて行った。
「松田君、ちょっといい? お昼一緒しない? 」
美香が向かったのは、慧の元だった。
慧の友達、特に女友達二人があからさまに何この女! みたいな視線を投げかけてくる。
「えっと……」
美香が麻衣子の友達だとは知っていたし、前に麻衣子が部室に行った( 拓実にちょっかいだされた時だ )のを聞いたのも美香だったが、名前までは知らなかった。
「三条美香。麻衣子の友達」
慧は帰り支度をすると、美香の後について歩きだした。
「松田君?! 」
女友達が慧を呼び止める。
美香がチラリと、慧を呼び止めた女子に目を向けた。確か、
この子、松田君のこと好きなんだ? 麻衣子のライバルってわけか。
美香は、敏感に美和の気持ちを読み取るが、だからと言って弁解するでもなく、逆に煽るように慧の腕に手をかけた。
「また明日。じゃあな」
慧も、あまり気にする様子もなく、美香に腕を引かれるまま教室を出た。
教室を出た途端、美香は慧から手を離し、慧のことを遠慮なくじろじろと観察した。
「なんだよ? 飯食うんじゃないのか? 」
慧は、相変わらずぶっきらぼうというか、麻衣子に話すのとさして代わりなく美香に接する。
「そうね。学食でも行く? 」
それなりの距離をとり、二人並んで学食へ向かった。
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