第9話 ストッキング

「これ、履いて」


 金曜日の朝、大学の講義が昼過ぎからだったため、朝っぱらからスキンシップをとった後、シャワーを浴びた麻衣子に、慧はビニール袋を渡した。


「何これ? 」


 中を覗くと、コンビニ袋の中にはストッキングが入っていた。


「ストッキング? この季節に?


 ストッキングが好きではない麻衣子は、どんなに寒くても生足ミニスカートなのであるが、ほぼ夏になってきた今、一番必要としない衣類No.1である。


「ちょっとこっちきて、ここに座って」

「テーブルだよ? 」

「いいから」


 麻衣子が、何をやらせるのよ?と不審げにしながらも、言われた通りにテーブルに腰かける。慧もその横に座り、麻衣子の肩に手を回した。


「なんなのよ、いったい? 」


 おもむろに麻衣子の太腿を撫で回したかと思うと、いきなり事に至ろうとする。


「テーブルの上は痛いんじゃない? 」


 新しいプレイなのかと思いながら、麻衣子は慧の首に手を回す。

 ワンラウンド終了し、目的はセックスじゃなかったことを慧は思い出した。

 満足いくまで麻衣子を堪能した後で、会話を元に戻した。


「ほら、生足ミニスカだと、いくらだってできちゃうんだぜ。前に拓実先輩に触られただろ? 」

「あれは、まあ……」

「カラオケに男くるんだろ? 生足でなんか行ってみろよ、やってくださいって言ってるようなもんだぞ。ストッキングはいてれば、直に触られることは避けられるだろ。どうせ男なんて、ミニスカ見たら手突っ込んでくるんだから、ストッキング履いとけ」


 えっ?

 触られるのは決定なの?


 二人っきりで会うわけでもなく、大勢でカラオケに行くだけだから、そんなに危機感を持っていなかった麻衣子は、いまいち慧の心配が理解できなかった。


 心配してくれているのかな?

 でも……直じゃなければ触られてもOKなわけ?


「わかった、了解。履いていけばいいんでしょ」


 慧の思考は理解できなかったが、心配してのことだとは分かったので、目の前でストッキングを履いて見せた。


「これでいい? 」


 こいつ、わざわざ忠告してやってるのに、やっぱり行くのかよ?素直にストッキング履くんじゃなく、そこは行くの止めようかなじゃないわけ? ……と、慧は多少ムッとしながら、初めて見るストッキング姿に再度ムラムラしてくる。


 慧は、麻衣子の足を撫で回してみたら、そのスベスベする手触りは、生足とも違う気持ち良さがあった。


「うーん、直には触れないけど、やろうと思えばできそうだな」

 慧は、ストッキングを引っ張りながら、ウウムと顎に手をやる。


「なんの研究してるのよ」


 テーブルに手をつかせ、麻衣子の尻をつき出させると、ストッキングに指をかけ、おもいっきり引っ張ってみた。

 ストッキングは簡単に破け、エロさが爆発する。


 慧は三回戦目に突入する。


「もう、もったいないじゃない」

「いや、こういうプレイもありだな」

「バッカじゃないの。みんないるのに、そんなことになるわけないでしょ」


 しかも、わざわざ買ってきたものを、自分で破っているし……。


「まあ、ここまではやらないか。じゃあ、はい」


 慧は、新しいストッキングを出す。

 一度、ストッキング破いて……ってやつをやってみたかったから、数足買っといたのだ。

 本当は、ズボンを履いてもらえばいいのだろうが、そこまで口を出すのも躊躇われた。気持ち的には行くな! なのだが、そんな束縛をするような関係じゃないしと、慧は口にでかかった言葉を飲み込んだ。


 麻衣子はストッキングを履き替え、ただ破られるだけのために履かされたストッキングをゴミ箱に捨てる。


「じゃ、大学行くか」

「うん。そうだ、今日どうする?

あたし帰るの遅くなるかもだけど、うちで待ってる? 」


 アパートを出ると、手を繋ぐでもなく並んで歩く。


「今日は、うちに帰るかな」

 麻衣子も遊びに行くなら、たまには自分のアパートに帰るのもいいかもしれないと、慧はスマホをいじりながら答える。

 スマホを見ると、幼馴染の愛実めぐみからたまには遊ぼうとラインが入っていた。


 慧は、カラオケでも行く?とラインを返す。

 すぐに既読がついて、OKの返事がくる。


「俺も用事できた。友達と遊び行くから」

「ふーん」


 麻衣子はチラッと慧を見たが、特に何も言うではなく、駅への道を急いだ。本当は、誰とどこに行くのかが凄く気になっていたけれど、しつこくしてうざがられたら……と思うと、聞くことができなかったのだ。


 まあ、セフレとカラオケへ行くというのだから、聞かなくて良かったのかもしれないが。

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