第8話 セフレ以上、恋人未満

 セフレ以上恋人未満な関係が定着しつつあった。


 セフレ以上とは、ほぼ毎日慧は麻衣子の家に泊まりにきて、関係を続けていること。いつの間にか合鍵も持っていたし、慧の荷物も麻衣子の狭い部屋に着々と増えていた。ただのセフレは、半同棲みたいなことにはならないだろう。

 こない日に連絡がくるくらい、慧は麻衣子のアパートに入り浸っていたのだ。


 恋人未満とは、大学では全く関わらないから。たぶん、麻衣子と慧が友達であるとも認識されていないだろう。お互い、二人きりの時は、名前を呼び合っていたが、大学では名字で呼んでいたし、親しい感じは一切出していなかった。

 また、夕飯くらいは一緒に食べに行くことはあるが、外でデートということを一切したことがなかった。もちろん、手を繋いで歩く……なんてこともない。一緒にいてご飯を食べ、セックスをするだけなのだから、それだけならセフレに近いかもしれない。


 意図してそうしているわけではないのだが、なんとなくこういう関係が普通になっていた。


「そういや、最近は拓実先輩はこなかけてこない? 」

「ないね。なんか相田さんと付き合いだしたとか、相田さんから聞いたけど」

「あ、それ俺も聞いた。拓実先輩が手を出したら、初めてだったから責任とってって、無理やり彼女になったとか。あいつが初めてのわけないじゃんか、なあ? 」


 なあ? と聞かれても、麻衣子は曖昧に笑うしかない。


 初めてで責任とって……か、あたしも責任とってって迫ったら、彼氏になってくれるのかな?

 今さらか……。


 これ、実はHの最中の会話だったりする。

 すでにHまで日常と化してしまうくらい、一日の流れに組み込まれていた。


 これだけ毎日やりまくっていると、さすがに麻衣子もやり方がわからないということもなく、受けばかりだった最初と違い、かなり積極的に動けるようになった。

 また、いろんな性感帯が開発され、見た目にも変化が出てきた。


 色気が出てきたのだ。


 女らしい身体つきや、ふとした仕草や目付きなどに、男をドキッとさせるような、艶やかさが見え隠れするようになり、周りの見た目も変わってきた。

 すぐに一発できそうなケバくて派手な女から、一度やってみたいいい女に格上げされた。


 男子のこういう評価は、麻衣子などは理解していなかったが、慧などはヒシヒシと感じていた。


「そういえば、今度の金曜日、美香達とカラオケ行ってくる」

「カラオケ?…」

「前に約束してたんだけど、一度流れてさ」

「そうなの?ふーん」


 部屋の壁が薄いから、麻衣子は基本声を出すことはないが、眉を寄せて我慢している姿はゾクゾクするくらい色っぽい。どうしても我慢できない時は、手で自分の口を塞ぎ、涙を溢れさせて必死に耐えている。

 それが慧のツボに入り、何度でも頑張ってしまう。


「カラオケって、美香ちゃん達だけ? 」


 普通に会話しているようだが、最中の会話である。慧は基本無口で、あまり喋らないタイプの男子なのだが、Hの最中は饒舌になる。


 美香達は悪い子ではないのだが、彼女らは見た目通り男癖が悪い。かなり本物だ。誰とでも、どこでもできてしまう。もしかしたら人数とかもこだわらないかもしれない。彼氏がいるとかいないとかも、あまり関係ないようだ。


「男とかくるんじゃないの? 」


 麻衣子は口を両手で押さえて、何回かうなずいた。


「くるんだ……。そいつらと、こういうことするの? 」

「ウ……ウゥン」


 声を出したら、喘ぎ声まで漏れてしまいそうで、麻衣子は声を出さずに首を横に振った。


 美香達の男漁りに付き合うと、麻衣子が危ない目に合うかもしれないという思いから、麻衣子の行動を把握しておきたいんだ……と、慧は言い訳のように自分に言うが、他人が見たらヤキモチをやいているようにしか見えない。


「どこのカラオケ? 」

「……大学の近く。アッ! 」


 思わず声が漏れてしまい、麻衣子は慌てて唇を噛み締めた。

 そんな麻衣子の様子を見て、今度ラブホに連れて行こうと思いながら慧ははてた。


「ねえ、慧君、行かない方がいいかな? 」


 麻衣子は慧との関係を計りかねていた。毎日のように一緒にいるけれど、好きだと言われたことは一度もない。毎日何回も身体を重ねているのに。

 せめて、束縛するような素振りを見せてくれれば、好かれているんだろうと実感できるんだが……。


「別に、行ってくれば? 」


 慧の頭の中ではモヤモヤしているのだが、口調と態度はびっくりするくらいそっけない。


「そ……う」


 麻衣子の眉が一ミリ寄ったが、慧は気がつかなかった。

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