第5話 恋人?セフレ?

 洗い物も終わり、麻衣子はとりあえず身体を流そうと思い立った。


 昨日慧とHしたのならば、そのまま寝てしまったわけで、やはりここは風呂に入るべきだ。

 部屋の鍵を開けたまま風呂に入るのには悩んだが、慧を閉め出すわけにもいかず、かといって慧のいる前で風呂にも入りにくく、今は絶妙なタイミングではなかろうか? うまくいけば、帰ってくる前に出れるだろう。


 麻衣子はタオルをトイレの蓋の上に置くと、急いで洋服を脱いでユニットバスの中に入り、シャワーカーテンを引いた。

 身体を洗うスポンジが濡れており、慧が使ったんだなとボンヤリと考えた。


 泡立てて、念入りに身体を洗う。特に下半身はしっかりと。


「ただいま」


 慧が、シャワーカーテンの隙間から顔をだした。


「ヒェッ! 」

 

 麻衣子は慌てて前を隠す。


「おまえ、頭洗わないの? 」


 すでに化粧もしていたし、髪が濡れないように、頭をアップにしてとめていたのを見て、慧が洗えよと呟く。


「だって、化粧が……。( というか出てって! )」


 変に恥ずかしがって、男慣れしてないのがバレるのは避けたく、しゃがみこみたいのを我慢する。


「あのさ、トイレが濡れちゃうから、カーテン閉めてよ」


 よい言い訳を思いついたとばかりに、麻衣子はカーテンを閉めようとした。


「じゃ、俺も入ろうかな」

「はい? 」


 慧は素早く洋服を脱ぐと、お邪魔しますと入ってきた。


「さっき、入ったでしょ? 」

「洗ってやるよ」

「いや、もう洗い終わったし」

「頭まだじゃん」


 慧は、麻衣子の髪の毛をとめていたバレッタを器用に外すと、頭からシャワーをかけた。


「ほら下向け。シャンプーするぞ」


 麻衣子は右手で胸を、スポンジで下半身を隠しながら、言われるままに下を向く。


「……! 」


 もちろん、慧も素っ裸で風呂に入ってきているわけで、向かい合って洗っているから、麻衣子が下を向くと、慧の無防備な下半身が直に見えてしまう。


 しかも、何気に元気になっている気がするんだけど、男の人は常にこんな感じなの?


 男性経験皆無だった麻衣子は、男性の性器だって初めて見たし、元気になっている状態なんか、見たことすらなかった。


 いや、昨日手で触らされた記憶もなくはないけど……。


 麻衣子は、目をギュッと閉じて、とりあえず視界からブラブラしている物を消した。


「なんだよ、頭からシャワーかけるの苦手なのか?そんなに目つぶって。……ガキだな」


 慧は、リンスまできっちりしてくれた。


 何気に洗い慣れているような気がするのは、気のせいよね?

 真面目そうな松田君が、女慣れしてるわけないし。


 身体まで拭いてくれ、二人で狭いトイレで洋服を着た。


「髪の毛、乾かすか? 」

「うん」


 なぜか、ドライヤーまでかけてくれる。


 なんか、彼女みたい……。

 あれ、もしかして付き合ったのかな?

 じゃなきゃ、真面目そうな松田君があたしに手を出すなんてないよね?


 そのことについては、全く麻衣子の記憶にない。

 それはそうだ。

 慧は、麻衣子の合意なく、なんとなくHし始めてしまい、バージンだと気がついたときには挿入済みだったのだから。

 付き合うだなんかの話しなんか、一つもしていない。


「あのさ、昨日、あたし達したわけじゃん? 」

「したな」


 さらっと言う慧に、麻衣子もなるべく平静を装う。


「でさ、あたしかなり久しぶりでさ、やりにくかったんじゃないかな……って。」


 初めてではなく、久しぶり過ぎてと強調する。


 慧は、なんだってこいつはバージンだったのを隠してるんだ? と不思議に思いながらも、別にどうでもいいことだから、話しを受け流す。


「ふーん、別に。四回もしたし、最初だけえらく痛がってたみたいだけど、すぐに慣れたぜ」


 痛がって……って、それでもする松田君って、どんだけ飢えてるのよ?!

 しかも四回?

 ゴムもなく?


「あの……直にしたの? 」


 うちにはゴムなんかない。

 まさか、帰り際に意気投合して、やる気満々で購入してからきたの?

 ないわ!

 泥酔してたって言ってたもの。


「まさか? いくらなんでも、直になんかしねぇよ。それとも、生OKな人? 」


 麻衣子は、首が千切れるんじゃないかというくらい、思いっきり横に振る。


「ゴムは? 」

「そりゃ持ってるだろ」

「持ってたの? 」


 何度も言うようだが、見た目真面目な慧が、そんなものをを持ち歩いているとは、いささか信じられない。


「男の嗜みだ」


 つい三週間前、セフレの幼馴染とやった時に購入したコンドームが、鞄の中に入っていただけだった。そんな説明はいらないだろうと、とりあえずきちんとコンドームを使ったことだけ示そうと、ゴミ箱を麻衣子の前に持ってきた。


 中には、大量のティッシュと、頭を縛ってあるコンドームが四個入っていた。


 生々し過ぎる……。


 つい昨日までバージンだった麻衣子には、刺激的過ぎる物体だった。


「わかった、了解」


 麻衣子はゴミ箱を部屋の隅に片付ける。


「で、あのさ……」

「なんだよ、まだあるの? 」


 慧は、少し面倒になってきたのか、立ち上がって帰り支度を始める。


「あたし達さ、付き合うとかそんな話しは……? 」

「付き合いたいの? 」

「いや、そういうんじゃないけど、覚えてないから聞いただけ。付き合っては……いない? 」


 普通ならただのセフレである。そういう状況だ。

 でもなあ、こいつの初めてを奪ってしまったわけで……。

 こいつ見た目と真逆でなんか几帳面で真面目そうだし、遊びでした、そうですね……とはならないだろうな。

 それに、マグロ女だけど、あそこの具合は最高だったしなあ。

 見た目は化粧落としたら地味だけど、まあありっちゃありかな……などと、麻衣子が知ったら怒り狂いそうなことを、平気で考えていた。


「まあ、どっちでもいいよ」

「どっちでもいい?! 」


 どっちの意味がわかりませんけど?


「じゃ、歯ブラシおいといてな。あと、これも。んじゃ、バイトあるから帰るわ」


 慧は紙袋に入った物をテーブルに置くと、麻衣子の口にチュッとキスして慌ただしく部屋を出ていった。


 残された麻衣子は、唇を押さえて茫然としていた。


 そりゃ、昨日は四回もしたわけだし、あまり覚えてないけどキスもしたんだろうけど……。


 はっきりと記憶のあるキスは、生まれてこの方、これが初めてと言ってよかった。つまりは、麻衣子の記憶に残るファーストキスである。


 慧は、まさか初Hだけでなく麻衣子の初キスまで奪っていたとは、思いもよらなかった。


 しばらくファーストキスの感慨にひたっていた麻衣子は、ふとテーブルの上の紙袋に目を落とした。

 中を開けると、色使いの綺麗な四角い箱が入っていた。

 箱の表書きを読む。


 サラサラ加工で薄さ0への挑戦……。


 コンドームかい?!

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