第3話 お持ち帰り

「おい、駅ついたぞ! 自力で歩け! 」

 慧は麻衣子の腕を引っ張り、なんとか歩かせて電車を下りた。

 駅のベンチに座らせると、麻衣子の鞄をあさる。

「おい、学生証見るからな」

 最寄り駅は知っていても、どこに住んでいるかなんてわからない。

 学生証を出して住所を確認すると、スマホの地図アプリで道順を確認した。


「おい、まじかよ……。歩いて二十分って、なんだって駅近に住まないんだよ」


 家賃が安いからよ。

 麻衣子が素面ならば、きっとそう言ったことだろう。

 地元の大学ではなく、かなり無理言って東京の大学に決めてしまったため、仕送りは五万のみ。あとは自力で稼ぐ必要があったため、風呂トイレはあるものの、最安値物件に入居したのだ。


 引きずるようにして麻衣子を歩かせ、歩いて二十分のはずが倍近くかかってなんとか麻衣子のアパートにつく。


「ここ? 」


 男の自分でも躊躇われるような、昭和の匂いが満載のアパートだった。ギシギシ鳴る外階段を上り、二階の角部部屋の前までくる。

 鞄の中から鍵を出して、なんとか部屋の中に麻衣子を押し込んだ。


 ここから帰っても最終電車はすでにないし、ここに麻衣子を運ぶだけですでにヘトヘトで、三駅も歩く元気はない。


「徳田さーん、泊まるからなー」

 もちろんうなずくわけはないが、一応声をかける。

 慧は部屋に入り鍵を閉めると、とりあえず靴を脱いだ。麻衣子の靴も脱がせ、部屋の中に引きずり入れた。


 泥酔した人間ってのは、ここまで重いものか……。


 玄関から部屋まではほんの数歩なのに、慧の息が上がる。部屋の端に転がっている麻衣子は、腹が立つほど幸せそうな顔をして寝言をつぶやいていた。


 部屋を見回すと、狭いがそれなりに片付けられている。布団も畳まれていたし、キッチンも自炊してそうな感じに料理道具は揃っており、きちんと整理整頓されていた。

 チャラチャラした見た目のわりには、しっかりしてるんだなと、感心して麻衣子を見下ろした。


 とりあえず布団を敷こうと、テーブルを横に片付けて布団を敷く。

 押し入れを見たが、余分な布団はなかった。まあ、二組布団を敷けるだけのスペースもないようだから、あったとしても無意味だけれど。

 麻衣子を転がして布団の上に移動させると、見事にスカートがめくれあがり、ピンク花柄の下着が丸出しになる。


「徳田さん、パンツ丸見えだぞ」


 スカートをなおそうと近寄ると、いきなり麻衣子がムクッと起き上がって、慧に抱きついてきた。


「拓実せんぱ~い」


 どうやら、慧と拓実を勘違いしているようだ。


 そこで、慧は部室に行った時のことを思い出した。

 慧は、花怜と同じ時に部室に入ってきた学生の中にいたのだ。


「なんだ、やっぱりこいつも拓実先輩とやってたのか」


 気のせいかとも思ったが、拓実の手が麻衣子の太腿の上にあったのを見た。

 拓実が部活内で女子を食い散らかしているのは有名だったし、麻衣子の見た目からも、拓実と関係ないほうがおかしいだろう。


「まあ、こんな軽そうなの、即食いだよな」


 慧は、見た目のわりには女性経験が豊富なほうだった。相手が勝手に安全パイ扱いし、気を抜いて接してくるため、なんとなくHできてしまうシチュエーションが多かった。そんなわけで、彼女はいないが、セフレは数人……という羨ましいタイプの男子だった。

 慧も聖人君子ではないし、見た目草食系男子、実際はがっつり肉食系男子だったため、チャンスさえあればいただくのもやぶさかではない。


 今回の麻衣子も、まあ酔っぱらいだし、相手から抱きついてきたわけだし、Hしたとしてもそんなに後腐れはないだろう。


 そんな気持ちから、慧は麻衣子と唇を重ねた。

 舌を絡めると、微妙に反応が弱い。

 ただたんにキス初体験で、舌の絡め方なんてわからないだけなんだが、慧は酔っぱらい過ぎだと解釈した。


 麻衣子は酒で朦朧とする意識の中、夢の出来事だと勘違いしていた。しかも、拓実が相手の。


「徳田さん、ヤルけどいいよな?」


 一応、泥酔状態の麻衣子にご確認を入れる。

 相手が拓実だと思い込んでいる麻衣子は、お酒で朦朧とし目の前にいるのが拓実じゃないなんて思いもよらずにこくりとうなづく。慧は器用に麻衣子の洋服を脱がせると、自分もさっさと裸になった。


「あり得ねえ、こいつ上下別々の下着だ」

 色は揃えていたが、ブラとパンツの質感が違う。

 しかし、別に下着にこだわりがあるわけではないので、慧はブラを外して放り投げた。


「そんじゃ、失礼しまーす」


 慧は軽いノリで身体を重ね、麻衣子は相変わらず泥酔状態だった。

 

 ★★★


 素っ裸で転がった慧の頭の中に、?マークが渦巻いていた。最中に呟いた麻衣子の「痛い」という言葉。


 痛い?

 そんなわけないだろう?

 まさかな……。


 慧の中に、あり得ないだろう疑惑が生まれる。


 いや、ないだろ? ないって、あり得ないだろ?

 こいつがバージンだなんて!?

 見た目イケイケ(死語)で、いかにも男遊びしまくっていそうな見た目しやがって、そんなこと……。

 

 頭では否定したが、経験豊富な慧には、麻衣子がバージンであったことに気がついてしまった。

 そして、泥酔しながらも、麻衣子は慧を慧だと認識していなかったことも……。


 明らかに、慧を拓実だと勘違いしているようだった。途中も「拓実先輩……」とか言っていたし。


「マジかぁ……」


 もうすんでしまったことはしょうがない! 第一、きちんと慧はお伺いはたてたのである。麻衣子の合意ももらった。たとえそれが勘違いでも。


 慧は麻衣子の隣りにごろんと横になると、そのまま眠りについてしまった。



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