ACT.55 それぞれの戦場(Ⅱ)
▽▲▽
まず最初に動き出したのが、アキハ班だ。
この班は、かなり異質な構成をしている。
攻撃役は、小柄な少女であるアキハだけで、他のメンバーは全員アキハを強化し、敵を弱体化させるバッファー・デバッファーで構成されているところだ。
全員からの強力なバフを全身に受けながら、少女は笑う。
「はっ、俺様よりでかい敵なんか初めて見たわ。でも、だからこそぶっ壊しがいがあるな!!」
少女は不敵にそう笑い、こう叫ぶ。
「やっちまおうか!! 【奥義:
つぎの瞬間、彼女の周りから次々と長く巨大な岩が、地面を突き破り生えてきた。
その岩々は、細かく次々と結合しだし――そこでその光景を始めてみた者たちは気が付く。
これは岩ではなく、骨だということに。
そうして最後に現れたアーチ状の肋骨がアキハを胸部へ格納し、その上に頭蓋が乗る。
最後に完成したその巨大な骸骨が、崩れかけの大鎧を纏い、大斬刀を手に兜をかぶる。
すると空っぽの眼窩に暗い炎が宿る。
最終的にそこに現れたのは、全長50mを超える巨大な落ち武者の威容だった。
『そいじゃ、いってくるわ!』
そういって地響きを立てながら、落ち武者は動き出す。
自信をはるかに超える、巨竜を打ち倒す為に――。
▽▲▽
一方、アキハより早く、既に動き出している者たちがいた。
そう、ジライヤ班である。
彼らは視界の悪い嵐の中を進み、先行し、既に【“極青冠”セイリュウ】の左前足の元まで来ていた。
足元に到達した派手な陣羽織の男――ジライヤは、すかさず特殊な印を組んで待機する。
「Meの準備はOKよ? Youたちは?」
「大丈夫です! いつでもぶちかませます!」
「OKネ! 【油遁:
【
すると、どうだろうか。
セイリュウが踏みしめた左足が、その下の大地が突然ぬかるみ、沈みだしたのだ。
その足を絡めとるのは大量の油。
その地面だけが限定的な油田と化したのだ。
「今ネ!!」
その掛け声と共に、単体攻撃力に秀でたメンバーが選出された、ジライヤ班の面々が攻勢をかける。
必殺の奥義や、忍術を次々とぶちかまし、その足に大ダメージを与える。
『GYAAAGWAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
それがたまったものではなかったセイリュウは、その足を急いでぬかるみから外そうと、残る足に力を込める。
「させないネ? みんな、一時撤退!!」
ジライヤは手元で新しい印を組みながら、全員に撤退の指示を出す。
各自の攻撃のクールタイムを考慮して――そして、自身の攻撃に巻き込まない為に。
「油遁の真の怖さを味わう時ネ――【火遁:業魔・黒縄地獄】!!」
――突然だが、油遁という忍術の表記は実は誤りというか、語弊がある。
実のところ、油遁で出している“油”は、一般的な油ではない。
じゃあ何なのかというと、その正体は、強力な液体爆薬である。
それも【蝦蟇油】と呼ばれる、この世界では蛙系最上位級妖魔と、【焔天忍】のみが使用できる、常識外の破壊力を秘めた最上位危険物。
威力は、カイトが日常的に使っている爆発物の比ではない。
その危険な【蝦蟇油】に並々と足を浸したセイリュウの、その左足に向けて今、上級火遁が放たれた。
着弾と同時に、周囲一帯が、紅蓮の光に包まれる。
続いて、大地を割るような轟音と振動。
閃光と爆炎が晴れたその時、残っていたそのセイリュウの左足は、大量の出血と重度の【やけど】、骨の見えるほどの損傷を受けていた。
十数人の全力攻撃でもろくな損傷を与えられなかった、セイリュウに、奥義を使わずの一撃で大打撃を与える。
それこそが【焔天忍】。
“火力最強”と謳われる、この世界の頂の一つである。
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