ACT.56 それぞれの戦場(Ⅲ)
▽▲▽
【“極青冠”セイリュウ】は、怒りに震えていた。
数日前まで周りを這いずり回っていた蟲をようやく全て払えたと思ったのに、今度は山ほどの数がたかってきたことに。
なまじ数が多く、蟲の分際で統率の取れた動きをする奴等は、足で踏んでも尾で払ってもなかなかつぶせない。
そのことに、セイリュウは強い苛立ちと怒りを覚えた。
更には、あろうことか自分に痛みと怪我を負わせてきた。
これには、流石に怒りが頂点に達したセイリュウは、本気で蟲どもを殲滅することを決める。
そして、セイリュウはしもべたちに命令を出す。
“奴らを根絶やしにしろ”と。
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最初に異変に気が付いたのは、今まさに前線で戦っているジライヤ班やアキハ班の者ではなく、出番に向けて息をひそめている上陸組――ライガ班にいたレナだった。
「ん、なんかおかしくない?」
「何がだ?」
「セイリュウの背中の森が、なんかざわざわしてる」
そう言われてカイトもそこへ目を凝らすと、確かに背中に茂る森が、ざわざわと動いているように見えた。
そしてそこから、小さな何かが無数に飛び出した。
飛び出したその何かたちは、迷うことなく一斉に、足元で戦う彼らの元へ襲い掛かった。
▽▲▽
『おらぁぁぁあああああ!!』
奥義を纏い、巨大な落ち武者と化したアキハは、横なぎに大太刀を振るい、【“極青冠“セイリュウ】の右足を切りつける。
斧で大樹を切り倒すような動きで、その足に深々と大太刀が刺さる。
それらを振り払うように暴れる足を襲い掛かる尾を、アキハは絶妙な身のこなしで、最低限の動きをもって回避する。
『はっ、こんなの楽勝――ん?』
そこで彼女は気が付く。
頭上から、大量の何かが降ってくることに。
だんだんと近づくそれらの正体が、彼女の眼に映った時、思わず叫び声をあげた。
『ちょっ、嘘だろ!?』
頭上から降ってきた異物の正体は――竜。
太古の昔、地球上に存在していたといわれる翼竜たちであった。
一体が2mを超える大きさの翼竜たちの頭上には、名前がポップアップされており、その名は【“青冠“の風翔竜】。
『アレ全部、二つ名かよ!?』
その数は、およそ三十。
一体一体が、【“青冠”の嶺兎】と同レベルの強さを持つ、天翔ける竜たちが、次々とアキハに向かって急速降下して向かってきていた。
『くっそ、【火遁:群狼火】!!』
アキハの纏った落ち武者が、その声に合わせて大きく息を吸い込み、吐き出す。
吐き出したその息は、紅蓮の炎となり、その炎はたちまち空を走る紅の狼群と化す。
炎の狼たちは、空を駆けその翼竜たちに襲い掛かり、次々に撃墜させる。
――だが、数が多い。
それを避け切った数匹の【“青冠“の風翔竜】が、落ち武者の腕や鎧に噛みつく。
数度簡単に噛みついただけで、その本来ならば強固であるはずの部位が、ぼろりと崩れ落ちる。
『こいつら、よりにもよって【風化】攻撃持ちか!』
木遁系の状態異常の一種に【風化】というものがある。
この状態異常は、シノビにではなく武器や建造物に付与されるという特異性があり、この効果は、その物の耐久性を著しく減衰させるというもの。
巨大なオブジェクトを纏っているアキハにとっては、これ以上ないほどの天敵であった。
羽虫を払い、潰すような動作で抵抗するが、潰す以上の速度で倍の個体が群がっていく。
その様子は、人が無数のグンタイアリにむさぼり食われる様子に似ていた。
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