ACT.54 それぞれの戦場(Ⅰ)
▽▲▽
そして、約束の日がやってきた。
円卓での作戦会議から数日、各々がそれぞれやるべきことをして【“極青冠”セイリュウ】への戦いの準備を進め、とうとう決戦の日が訪れたのだ。
決戦の舞台は、大渓谷エリアを抜けた先にある荒野エリア。
ここのエリア境界に近い開けた高台に、カイトたち三人を含めたパーティーを含めた、今回の作戦に参加する百人近い人数のシノビが集まっていた。
「カイト、カイト!」
「どうした?」
「な、なんか緊張するね。私こんな大規模なの初めてだから」
そわそわしたような様子でそんなことを言うレナとは対照的に、カイトは至って冷静だ。
カイト自身も、そういった気持ちが無いわけでは無いが、そういった素振りは見せていない。
何故ならば――。
「カイト、君たちも到着したんだね」
「お前らもな、スズハヤ」
到着したカイトたちを出迎えたのは、スズハヤといつか戦ったリオナとカオル――スズハヤのパーティだった。
そうカイトが落ち着いた様子を見せるのは、彼らが理由だ。
ライバルたるスズハヤの前で無様は晒せないのはそうだし、更に言うと、まだ見ぬライガやジライヤ、アキハといった各班のリーダーたちの実力より、その今回ばかりは頼もしい力量を知っているスズハヤたちの存在に、信頼に似た安心感を覚えていた。
「な、馴れ馴れしくするなよ!」
「そうだし、前回は偶々負けただけで、スズハヤ様の方が、全然強いんだし!!」
そこに、前回あの絡繰屋敷にてカイトとレナにコテンパンにされた、リオナとカオルが食って掛かる。
そういえば、この二人とは、まだなかなかにシコリが残っていたままだったと、カイトは思い出した。
「リオナ、カオル。それは違うよねって僕は言ったよね?」
「「うっ!」」
そんな二人の態度にスズハヤは一つ、くぎを刺す。
親愛なるスズハヤからのその言葉に、言いよどむ二人。
そして二人は顔を見合わせて、渋々といった風にカイトたちに頭を下げた。
「「ぜ、前回は、申し訳ありませんでしたっ!」」
「うむ、よろしい!」
その謝罪に何故かレナが、快く返事をする。
「それじゃ、今回は仲間なんだから一緒に頑張ろうね!!」
「皆さん!!」
そういって笑顔で二人の手を取って、ぶんぶんと振りまわして握手する。
半ば困惑した表情をする二人だが、彼女らがなにかを言う前に、集まった全員に届く
声で小高い場所にいた、ライガが話始めた。
「先行した偵察隊からの報告で、間もなくセイリュウがこの場所に到着します! 各自班ごとに集まって最後の準備を!」
「よし、レナもナギも、じゃあ行くぞ」
「二人も、行きましょう」
そういって六人は、ライガ班の集合場所に移動する。
移動した先では、総勢四十名前後のライガ班がそろっていた。
「ナギちゃん、そういえば拙僧さんはいないんだね?」
「あぁ、拙僧さんはジライヤ班にいますよ。班の組み分けは、基本的にタンク系はジライヤ班に、バッファー・デバッファーはアキハ班に配属の傾向になります」
「そして、ライガ班には、単騎での戦闘能力に秀でた奴等だな」
なるほどな、と納得するレナ。
レナがそんな表情を浮かべたところで、集団の先頭にライガが立ったのが見えた。
「皆さん、今回は作戦にお集まりいただきありがとうございます! この作戦に失敗するということはすなわち、“影の国”の崩壊であり、滅亡です。しかし敵は強大で絶対に勝てるという確証はありません!」
そこで言葉をいったん区切り、続けてこう話す。
「しかし、我々ならばできると信じています! 一緒に“影の国”を救いましょう!!」
その言葉に集団から歓声が上がる。
その言葉に集団から歓声が上がる。
レナたちもその演説に拍手を送る。
「我々の仕事は、ジライヤ、アキハ両班が両足を崩したのちの上陸戦です。それまでは、同胞たちを信じて待ちましょう!」
ライガがそんなことを言った直後だった。
大渓谷エリアと荒野エリアを分ける巨大な岩山が砕け散り、その中から一体の山のような巨体を持つ大巨竜が姿を現した。
『GYIYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
岩山を砕くと共に大咆哮をあげた大巨竜――【“極青冠”セイリュウ】は、カイトたちの方向へ、ひいてはその先にある“影の国”に向かって直進して来る。
その動きは、巨体ゆえに緩慢ではあるが、歩幅が大きいため速度は意外なほど早い。
あと数分で、カイトたちの作戦圏に突入するだろう。
「作戦を開始します! 皆さん、気張っていきましょう!!!!」
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