ACT.41 最低の下策(Ⅴ)
奴は、この戦いで自身の弱みになるその鎖を、自分の足ごと自ら切断した。
この狭い奈落での戦闘で、自身の持つ走力は不要、そして足かせになるようなら片足すら不要と断じ、【“青冠”の嶺兎】は自ら鎖に捕らわれた足を切り落としたのだ。
「まずい!」
カイトは一瞬で状況を把握し、腕を組んで防御姿勢を取る。
そしてその防御の上から、鋭い跳び蹴りが突き刺さった。
片足になったところで、奴の瞬発力は何一つ衰えてはいなかったのだ。
カイトはその蹴りの威力を殺しきれず、弾き飛ばされ、壁に背をしたたかに打ち付ける。
HPがごっそりと減少し、眼の前が激しく点滅する。
「が――っ!」
そして、カイトにとって、新たに予想外の事態が起きる。
膝をついたカイトが、立ち上がろうとしたその時。
「あ、なんっ――」
カイトの視界が急にぐらりと回り、立っていられず地面に倒れ伏したのだ。
これは、高熱環境に長く居すぎたことでストレス過多になり、それによって精神に異常をきたし始めたことが原因であった。
『―――――。』
倒れ伏すカイトを無言で見下ろす【“青冠”の嶺兎】。
【“青冠”の嶺兎】は、一瞬カイトにとどめを刺すことを考え拳を振り上げたが、寸前でそれを留まる。
何故なら、奴は知っていたから。
シノビたちにとって、自身の命がどれほど軽いのかを。
ゆえに、この炎の奈落にただ置き去りにすることが、最もカイトを苦しめる結果になるのだと感じ取ったからだ。
だからこそ、【“青冠”の嶺兎】はカイトを殺さない。
しかし、もう一つの感情もその時【“青冠”の嶺兎】には芽生えていた。
それは、敬意。
自身より圧倒的に弱い存在でありながら、策と機転、そして勇気をもって立ち向かい、自分を此処まで追い詰めた存在。
そのことに、【“青冠”の嶺兎】は、妖魔でありながら――いや、高位の妖魔であるからこそ、人間のような感情で奴はそう感じたのだ。
だからこそ、この行為にはそういう感情が含まれていた。
憎悪と敬意。
相反する感情は、【“青冠”の嶺兎】自身をも、ただの舞台装置から戦士へと引き上げていた。
『GURAA!』
自身を此処まで追い詰めた戦士に敬意はらった咆哮をあげ、【“青冠”の嶺兎】は空を蹴った。
▽▲▽
【“青冠”の嶺兎】は、次々に空を蹴ることで爆発的な加速を得、自身を一本の槍と化す。
その突破力は、ナギの奥義で重量を軽減させられていた大盾を軽々と吹き飛ばす。
こうして、轟々と呻る地獄から、【“青冠”の嶺兎】は帰還した。
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