ACT.42 最低の下策(Ⅵ)
蓋をしていた大盾を吹き飛ばして現れた【“青冠”の嶺兎】を目にしたレナは叫ぶ。
「カイトは!?」
【“青冠”の嶺兎】には目もくれず、真下を確認する。
そこには、倒れ伏すカイトの姿があった。
「カイ――」
「レナさん危ない!!」
急いで助けに向かおうとしたレナを、ナギの絶叫が遮る。
次に瞬間には、レナの腹部に力強い拳がめり込んでいた。
「かはっ!」
【“青冠”の嶺兎】はわかっていた。
奈落に倒れ伏すカイトとは別に、今の自分が――HPを八分の一以下に削られた自分が最も警戒するべき相手は誰なのかを。
それは、この戦いの最初で、正面から万全の状態の自分と渡り合ったシノビ、レナであることを。
ゆえに奴は、そんな彼女の隙を見逃さない。
『――――――!』
腹部に一撃を入れた【“青冠”の嶺兎】は即座にレナの背後に回り込み、長い腕をその首に回し、締め上げる。
「ぐぅっ!?」
レナは必死になって、首に回されたその腕を振りほどこうと両手でつかみ力を入れる。
しかし、そこは上忍が複数人でかかることを前提とした二つ名妖魔と、中忍一人のステータス差。
振る解くことは、実質不可能に近い。
そして、背後を取られているということは、【奥義:
「れ、レナさん!!」
突如訪れた、過去最大の危機に、ナギは激しく動揺する。
そして、その状況で何もできない自分に愕然とした。
今、レナにバフをかけてもソレは延命措置にすらならず、忍術行使特化型の自分が殴り掛かりに行くことなんて、無謀というほかない。
それならば、忍術で攻撃するか。
「――!?」
その考えに至った瞬間、ナギの身体を恐怖が支配する。
また、自分はやらかしてしまうんじゃないか、この絶望的な状況にとどめを刺してしまうんじゃないか。
そう思ってしまった瞬間、震えが止まらなくなる。
足がすくんで、立てなくなったナギは、その場にしゃがみ込んでしまう。
「――な、ナギちゃん!」
そんな彼女の姿を見たレナは、かすれた声を出す。
「――!?」
その声を聴いたナギは、びくりと肩を震わせる。
もしかして、責められるのではないか。
ナギは、そんなことを言う人じゃないことはわかっていても、そんなことを思ってしまう。
しかし、レナの口から続けて紡がれた言葉は、ナギにとって予想外の言葉だった。
「逃げて」
「――え?」
「この、コイツが私を殺したら、次に狙われるの、は、ナギちゃんだか、ら。今の、うちに――!!」
紡がれた言葉は、ナギを責める言葉でも、助けを求める言葉でもなかった。
ソレは、ナギを気遣う「逃げて」だった。
ナギは、ここで思い知る。
そうだ、この作戦はもともと私が攻撃忍術をみんなといるときでも行使できればする必要はなかったんだということに。
二人は、ナギのそのメンタル的な欠陥を一切責めなかった。
無理に治させようともしなかった。
ただ、「ソレは仕方ないから、じゃあそれを踏まえてどうするかを考えよう」と優しく寄り添ってくれたのだ。
出会ってまだ二日の、他人であるわたしに。
「――なら、わたしも」
ここで頑張らなくても、逃げたとしてもレナもカイトも、誰もナギを責めないだろう。
自分たちの作戦が甘かったのだと、むしろ反省するかもしれない。
むちゃに突き合わせてごめんと、謝ってくれるかもしれない。
だけど、それで本当にいいの?
「よくない!!」
ナギは叫ぶ。
そんなのは、よくないと。
甘えっぱなしの自分は嫌だ、ただ弱いばかりの自分は嫌だ。
そう叫んで、彼女は立ち上がった。
「【木遁:雷神戦域・白夜行】セット!」
ナギはそうして、素早く印を組む。
いつの間にか、その両手の震えは止まっていた。
「【奥義:
首を絞められるレナのHPは、どんどん減少していく。
もはや、猶予はない。
だが、ナギは焦らない。
着実に、自身の元来持つ爪牙を研ぎ澄ます。
その瞳には、覚悟の炎が宿る。
狙いは必中、一撃必殺。
自分を受け入れてくれた二人を助ける為、そして弱いままの自分を捨て去るため。
今、眠れる獅子が牙を剥く。
「【カスタム忍術:雷神極光】!!」
【“青冠”の嶺兎】に向けて伸ばされたナギの指先から、極限まで絞られ、圧縮された極光が走る。
それは真昼のエリアを切り裂くように、天地を切り離す一戦となって飛ぶ。
『――――――!!』
そしてその眩い極光は、そのまま寸分たがわず【“青冠”の嶺兎】眉間を貫いた。
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