ACT.28 “CHRONICLE”の胎動(Ⅱ)


「クロニクル、クエスト?」


 カイトは初めて聞く、この世界の名前を冠するそのクエストに首をかしげる。

 その疑問に、レナが答えた。


「クロニクル・クエストっていうのは、特殊な超大型クエストのことだよ」


「超大型?」


「そう、それこそ、その結果は全プレイヤーに影響するくらいの」


 その言葉に、カイトは大げさな、という感想を抱いた。

 たかが一クエストが、そんな影響を及ぼすわけがないと。

 しかし、カイトのその軽い認識を、ナギが真っ向から否定する。


「カイトさん、その認識は間違いです。実際、このクエストを軽く見たせいで、この世界の三大国の一角である【神の国/イズモ】が滅びかけました」


 これはカイトも周知の事実なのだが、この世界には今カイトたちが所属している中立国である【影の国】の外に、三つの大国がある。

 武力を重んじ、力を信ずる【武の国/ヤマト】。

 技術を重んじ、知を信ずる【技の国/ムサシ】。

 神事を重んじ、神を信ずる【神の国/イズモ】。

 今の世界は、この三国による天下取りの戦国乱世なのである。

 中忍昇格後は、このいずれかの国に所属し、よりストーリーに基づいたクエストをこなすことができる。

 そんな重要な要素である、三国の一国が、たかがクエストで滅ぶ?


「いや、滅ぶってまさか」


「――事実、のちに公式発言でありました。『あの世界はプレイヤーと共に生きている。彼等がイズモを見捨てたのなら、かの国の命運はそこまでだった』と」


「――マジかよ」


「それだけ、運営も本気なのです」


 そして、ナギは深刻な顔で続ける。


「だからこその、クロニクル・クエスト。その結果が、この世界の歴史になるのです」


「――そうなのです。そのクロニクル・クエストの時期が近いはず、と上位のプレイヤーたちは備えに忙しく、拙僧たちの相手をしてくれるどころではなかったのです」


「それは、まぁ仕方ないよな」


 うなだれるクロスをそう言ってカイトは慰める。

 だがそこで、カイトはふと疑問に思った。


「そもそも、“準備”ってなにするんだ? 運営からの告知ってまだないだろ?」


「あぁ、それ“予兆”の調査だと思う」


「“予兆”?」


 そのカイトの疑問に、レナが答える。


「まず、クロニクル・クエストの告知って一週間前じゃないとしないんだけど、その前一カ月くらいの時期から、次のクロニクル・クエストの内容のヒントがさまざまなクエストにシークレットで実装されるの」


「それが“予兆”?」


「そうだよ、大体の場合対策組むのに一週間じゃ足りないからね」


「一周間じゃ足りないってどんな内容だよ――?」


「えーと、前回が、ヤマトがイズモに侵略行為を開始したっていう大戦系のクエストで、ヤマト側が勝利して、イズモの領地が一部削り取られたんだっけ?」


 その内容は、想像以上にえげつなかった。

侵略戦争で仕掛けた側勝利って救いがないなと、カイトは思った。


「その前は――なんだったっけ?」


「ムサシに襲来した【極黒冠キョッコッカン】討伐ですよ」


 レナがド忘れしたことを、ナギが補足する。


「その物騒そうな名前のは?」


「【極黒冠ゲンブ】はこの世界に現れた二体目のレイドボスですね。あの時は、ムサシの方々が、イズモの二の舞になるか!って全力で迎え撃ってました」


「その言い方だと、イズモを滅ぼしかけたのって、他国じゃなく?」


「えぇ、【極白冠キョクビャッカンビャッコ】ですね、この二体は四神の名前を冠しているので、まだあと二体は最低控えているのではっていわれていますね」


 この感じだと、残りは朱雀と青龍。

 そして、一国に一体の割合で来ているとするなら、残った国はムサシと【影の国】。


「――なるほど、準備に躍起のなるわけだ」

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