ACT.29 “CHRONICLE”の胎動(Ⅲ)
「つまりは、その国殺しレベルのがこの【影の国】に来るかも知れなないってことなんだな」
「簡単に言うとそんな感じです」
そんな、自分の知らなかった大型イベントの存在に、カイトは思わずワクワクした。
内心で、そのイベントまでに、なんとしてもあの性悪狐を手名付けねばと決意を新たにする。
「――とまぁ、そういうわけでして、少なくともクロニクル・クエストの終わるまで、あのエリアでのレベリングを諦めるしかないのですよ」
クロスはそう言って肩を落とす。
「それはまぁ――仕方ないね」
「では、拙僧たちは、口伝や掲示板等でこの事実を周知、注意喚起しに行ってきますので、それでは」
そういってクロスたちは、各自、ログアウトやしたり散りじりに解散した。
「―――――。」
その姿を眺めながら、カイトは顎に手を当て、何かを考え込む。
レナが、その考え込む姿を見て、カイトに声をかけた。
「――ねぇ、どうかしたの?」
「いや、この問題俺たちで解決できないかなっと」
「え!?」
その予想外の発言に、レナが驚きの声をあげる。
「え、カイトさっきの話聞いてた? 玄人プレイヤー三人ぐらいでタメって話だったよね?」
「その件なんだが、レナは中級だし、俺も中級に片足突っ込んでいる状態だ。自力的にそんな無謀ってわけじゃないと思う」
「そ、そうかな?」
レナの不安そうな声とは裏腹に、カイトは至極楽し気に、にやりと笑ってこう付け足す。
「何より、策を練っての上級殺しは、どのゲームでも鉄板だろ?」
もともと、カイトはアナログゲーム――TRPGの愛好家だ。
その分野では、どう足掻いても人間ごときじゃ勝ち目のない敵が現れることなんて日常茶飯事。
そんなの相手に、知恵と勇気と幸運を武器に、切った張ったの活劇を繰り広げてきた人種のカイトが、“たかが強いだけ”の敵に怖気づくわけがなかったのである。
「で、でも私たち程度の攻撃がちゃんと通じるのかな?」
そんなレナの不安を、カイトは一笑に伏してこういう。
「安心しろ、攻撃は通じる」
「なんで断言できるのよ!」
「――そもそもな話、玄人がいれば話は違うんだろ?」
「そうだけど、上級プレイヤーたちは軒並みクロニクル・クエストの準備で――」
「――いるじゃん、クエストの準備をして無くて、攻撃力のすごい、上級プレイヤーの知り合いが」
そういって顔を見合わせた二人は、スッと自然な仕草で横を向く。
するとそこには、ボケっとした顔でこちらを眺める少女の姿が。
「――わ、わたし!?」
――そう、ナギである。
▽▲▽
「わ、わたしは、パーティープレイの時はバフかけるのに徹したくて――」
「まぁまぁ」
「カイトさん、聞いてます!? わたしにそんな責任重大な役目なんて無理ですって!」
「まぁまぁ」
「れ、レナさんまで!? ちょ、ちょっと背中を二人して押さないで下さ――」
「「まぁまぁまぁ!」」
有無を言わせぬカイトとレナに(物理的に)背中を押されて、ナギを含めた三人は、件の二つ名が出現したという焼野原エリアにやってきていた。
「――さてと、着いたはいいものの、どこにその二つ名とやらがいるのかなっと」
「う、うぅ、人の話を聞いてくれない――、多分めだつと思うので根気よく探してみればいいんじゃないでしょうか」
そんなナギのアドバイスを受けて、小高い現在地から周囲をよく見渡すカイとレナ。
――二人が異変に気が付くのは、割とすぐだった。
「――なんじゃありゃ?」
カイトの視線の先にいたのは、このエリアではよく見る、鉛兎という妖魔の群れだった。
通常大型犬サイズの鉛兎の群れの中に、一羽異様なのが混じっていた。
体毛は通常鉛色のはずが、鈍い銀色で、その毛は一本一本が針金のように鋭利で長い。
そして何より――
「――でっかいね」
――レナが絶句するのも無理はない、その体は、全長3m近い巨体であった。
そしてその頭上にポップしたウインドウには、こう書かれていた。
――【“砲弾“の鉛兎】、と。
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