ACT.27 “CHRONICLE”の胎動(Ⅰ)
▽▲▽
「うーん」
草原エリアから帰ってきたカイトたちだが、カイトは道中もずっと頭を悩ませていた。
その理由はというと――
「――あの、わたしもしかして、ダメな感じですか?」
不安そうな表情でカイトの顔をのぞき込むナギ。
――そう、原因はナギであるのは間違いないのだが、悩みの方向性は真逆であった。
「いや、逆なんだよなぁ。俺たちには勿体なさすぎるというかなんといいうか」
ランクで判別するにしたって、現在カイトが下忍ノ一、レナが中忍の二なのだから、だいぶある。
このランクは、クエストの達成時にもらえる達成ptの累計で変動する。
つまりは、強さの指標ではなく、優秀さの指標なのだ。
つまるところ彼女は、あの強さを持ちながらとても優秀なシノビであるというのだ。
「い、いえいえそんな勿体ないだなんて! ――あのパーティーやっぱり解散で、とかは無いですよね」
「ソレは無いよ! ね、カイト?」
自信なさげなナギの言葉をレナの声が遮る。
「それは無論だ。こっちもあの性悪狐を手名付けたいしな」
カイトのその言葉にナギはほっと胸をなでおろす。
そうやって歩きながら会話をしていると、差し掛かったクエストカウンター前の広場で、何人かのシノビが集まって神妙な顔をしていた。
そしてその中に見知った顔を見つけたレナは、その人物に声をかける。
「おーい、拙僧さーん」
そういって手をぶんぶんと振って合図を送ると、ソレに気が付いた彼がこちらを見た。
「レナ殿ではないですか! カイト殿も! お久しぶりです。――あと、レナ殿。拙僧の名前は“拙僧”ではなくクロスです」
大柄で僧侶の格好をした彼の名前はクロス。
カイトやレナとは、何度か共に戦った仲であった。
「こんなところに集まって何話しているんだ?」
「カイト殿、丁度いいところに来てくださった。実は――」
よく見ると、そこにはクロス以外にも見知った顔が何人かいた。
見知った彼らは、先日のジライヤ杯の出場者であった。
ほかにも見知らぬ顔もあるが、その装備品から鑑みて、全員が初心者であるといえた。
そしてクロスは神妙な顔でこう言う。
「――焼け野原エリアに、
「二つ名?」
「あ、それはですね!」
聞き覚えのない単語に頭をかしげるカイトに横にいたナギが、説明する。
「通常の妖魔と異なる特異個体のことです。この世界では、各エリアの妖魔が極々低確率で二つ名化します。その個体は、そのエリアの推奨レベルをはるかに超えたレベルを持っていて、通常のボスよりも強力です」
「なるほど、それが出現したと? ソレのどこが問題なんだ?」
その段階でカイトが感じた疑問にクロスが答える
「場所が問題なのです。焼野原エリアでも推奨レベル10~20といったエリアに出たのです」
「ちなみにそいつのレベルは?」
「75ですね」
「――それは、まずいね」
レナがそれを聞いてぽつりとつぶやく。
この
妖魔のLv10とは、Lv10のプレイヤー三人分と同等という基準なのだ。
つまり、上位プレイヤーが最低三人がかりでようやく倒せる奴が、突然初心者の狩場に現れたのだ。
その妖魔は新人にとっては悪夢といえた。
「ですので、ここしばらくは、あの狩り場はいかない方がいいなというのを周知させようかと話していたのです」
クロスがとても残念そうな顔でそんなことを言ったその時に、ナギは訝し気な顔をする。
「――この場合、上位の方々にお願いすればいいのでは? この国は、ジライヤさんの影響で初心者に優しい玄人の方々が多いですから」
ナギの指摘に、クロスはうんと頷くが、再び申し訳なさそうな表情になる。
「拙僧もそう考え、伝えてみたのですが、時期が悪く断られてしまいました」
「時期? ――あ、今はアレが控えているんでしたね」
その言葉に一瞬驚いたナギだが、その時期という言葉であることに気が付く。
ナギがアレと言ったその言葉を、今度はクロスが受け継いで口に出す。
「――そうクロニクル・クエストが近いのです」
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