ACT.13 戦の幕開け、十五の爪牙(Ⅰ)


▽▲▽


・参加者は『廃城』エリアのランダムな地点からスタート。

・形式はサバイバル。遭遇した者同士で戦い、最後に生き残った者が勝者となる。

・参加者の位置と距離は、常時視界にアイコンとして表示される。

・事前に配布するHP霊薬ポーション二本以外のアイテムの持ち込みは不可。

・参加者は15名で抽選で選ばれる。

・優勝者には豪華賞品。


 ――それが、先日明かされた『三代目“ジライヤ”主催! ルーキー応援サバイバルゲーム』もとい、『ジライヤ杯』の内容だった。


▽▲▽


「はぁああああっ!」

 そう叫び名があらカイトは、大蛇の姿をした大型妖魔の首をクナイで掻き切った。

『KISYAAAA――』

 断末魔をあげて倒れた大蛇を見て、カイトは一息ついた。

「おー、なかなかいい感じじゃない?」

 そばで見ていたレナが駆け寄ってくる。


 ――あれから、数日が経過した。


 詳細が明かされ、参加抽選も無事通過した『ジライヤ杯』に向けて、カイトは最後の追い込みをかけていた。

 そのおかげで、カイトは職業こそ初期の白忍のままではあったが、レベルは29まで上昇していた。

 カイト自身の素のセンスも相まって、出場してもいい成績を残すことは確実だろう。

――しかし、カイトの表情は硬い。

ソレは何故かというと――。


「――結局、奥義は発現しなかったな」


――そう、彼の奥義は今だ発現していなかったのである。

「うーん、でも逆に考えて、奥義なしで結果残したら大注目だよ?」

「いや、注目されたいわけじゃないんだが」

 そう言って彼はぎこちなく笑う。

 ――カイトの目標は、優勝ではない。

 いや、優勝できるならそれに越したことはないのだが、最優先目標ま違う。

 彼の最優先目標、それは――先日現れたあのプレイヤー、スズハヤの撃破である。

 スズハヤもまた、ジライヤ杯の抽選を突破してので、当たるのは必須。

 しかしながら、本番を明日に控えた今日ですら、スズハヤ攻略の糸口はつかめていなかった。

「――せめて奥義が発現すれば、話はまた違ったんだがな」

 厳しい顔で考え込むカイト。

 その表情にレナは一抹の不安を抱いた。

「ねぇ、カイト、無理してない? 大丈夫?」

「ん? あぁ大丈夫だが」

「それならいいんだけど――そうだ!」

 そこでレナは、いいことを思いついた。

 カイトの意識がスズハヤ突破にしかないのを危惧したレナは、此処でカイトにもう一つの目標を提示する。

「明日の『ジライヤ杯』で、最後の五人にまで生き残ったら、ご褒美をあげよう!」

「ご褒美?」


「――わ、私と一日デートできる権とか、どう?」




 その場にしばしの間、沈黙が流れた。


「え、なんで!? そのリアクションおかしくない!?」

「いやぁ、それってご褒美になるのかなって思って」

 カイトは目をそらしつつそういう。

「ひどくない? 私これでも美少女よ? その辺のアイドルにだって負けてないって言われてるよ!?」

「地下アイドル以上、芸能人未満」

「的確な表現ヤメテ!!」

 そういってカイトに掴みかかるレナ。

 そっから先は、わちゃわちゃとした痴話げんかとなり――先ほどまでの張りつめた雰囲気は霧散した。

 ――そのことに、言葉にはしないものの、カイトは感謝した。



▽▲▽


 そして、4月30日がやってきた。

 ミナトに特設された各選手の控室、そこにカイトとレナはいた。

 ミナトの大広場には、特設ステージが設置され、そこの映像が控室のモニターに中継されている。

「――――――」

 しかし、カイトはそんなものをみる余裕がないほどに緊張していた。

 こう見えて、あがり症なのである。

「だ、大丈夫?」

「ダイジョウブ ダ モンダイ ナイ」

「大丈夫じゃない感じたコレェ!?」

 そういって慌てるレナだが、レナが慌てたところでカイトの緊張が解ける訳ではない。

「――いや、ほんとに大丈夫、本番始れば慣れてくると思うから」

 カイトはそう言うが、そんなわけないとレナは感じた。

 それをみて、レナもどうにか緊張をといてやれないかと考えて、考えて、考えた挙句、一つの行動を始めた。

 椅子に座って考え込むカイトの後ろに回り込んだレナは、そのまま――


「――ぎゅっ」


 ――カイトの肩を強く抱きしめた。


「――――っ!?」

 驚きのあまり瞬時に飛び跳ねるように起立したカイトは、そのまま転ぶように猛スピードで部屋の隅に移動する。

「な! ななななななぁああああ!?」

 そして、かつてないほど真っ赤な顔で言葉にならない声をあげる。

「ど、どう? 緊張ほぐれた?」

 そんなことをカイトに問うレナの顔も、当然赤い。

「き、緊張――逆に、別な意味で緊張したわ!!」

「え、緊張してくれたの!?」

「いや、なんで喜んでんだよ!?」

 なぜか笑顔のレナに困惑するカイト。

「――でもこれで、本番が怖くなくなったでしょ?」


 しかし、つづくレナの言葉にカイトは気づかされる。

 ――自分が、今回の戦いで負けることを怖がっていたことに。

 レナは、カイトが無意識に感じていた怖れを、ちゃんとわかっていたのだ。


「怖くないなら、カイトは誰にだって負けない。――なんといっても、私のヒーローなんだから」


 そうやってほほ笑むレナの姿に、カイトは安堵と――謎の高揚感を覚えた。

 ――カイトはまだ、この気持ちの正体を知らない。だがきっと、いずれ知ることになるだろう。

「――ありがとう、レナ。ちょっとは勝てそうな気がしてきた」

「そう来なくっちゃ! 私もカイトに勝ってもらわなくちゃ困るし!」

「――困る?」

 その何気ないレナの一言に謎の違和感を覚えるカイト。

 すると、さっきまでより冷静になったカイトの耳に、モニターの中継音声が届く。


『さて、現在の一番人気はやはりスズハヤ選手、そのオッズは――』


「――オッズ?」

 無意識にその単語を口に出す。

 それを聞いて、眼をそらすレナ。

「お前、まさか――」

「――大丈夫、カイトに賭けたから」


「さっきの感動を返せぇぇぇええええ!!」




 ――なにはともあれ、なんだかんだで『ジライヤ杯』は非常に彼ららしい幕開けとなった。





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