ACT.14 戦の幕開け、十五の爪牙(Ⅱ)
▽▲▽
ゲーム開始のアナウンスと共にカイトが飛ばされた場所は、舞台となる『廃城』エリアの端、天守閣の見える旧庭園の一角だった。
「さて、まずはどうするか―ー」
カイトの視界には既に距離と方角の分かるアイコンが表示され、14人の対戦相手の居場所を伝える。
まず、このシステムの所為で最後まで隠れて漁夫の利を狙う戦術は使えない。
それを狙わないまでも、いざという時に遮蔽物の陰に隠れてやり過ごす、ということができなくなったのは痛い。
「自分から仕掛けにいっても良いかもしれないが、此処は取り合えず他プレイヤーの様子見がしたいな――っと」
そんなことを考えていた時、一つのアイコンがこちらへ向ってくるのが見えた。
「さっそくか」
そういってカイトは、出合頭の一撃を回避する為に崩れかけた橋の陰に隠れる。
「まずは、
クナイを右手に持ち直したカイトは、相手が通路の陰から現れるのを息をひそめて待つ。
「――ここで脱落しても恨むなよ」
そして、通路の陰から現れた瞬間に駆け出そうとして――
「カイト殿! いらっしゃいますよね?」
――直前で立ち止まった。
そこにいたのは、“会いたかったアイツ”こと――クロスであった。
彼もまた、抽選を突破していたのだ。
その声と姿を見て安心したカイトは、陰から姿を現す。
「おぉ、やっぱりそうであったか! 先ほど城内の窓から一瞬姿が見えたので急いで参ったのですぞ」
「そうか、こちらこそ助かった。じゃあ約束通り――」
「――うむ、これから一緒に頑張りましょうぞ!」
こういって2人は硬く握手をした。
――何故、バトルロイヤルのこの大会で敵同士の2人が仲良くしているのかというと、実は始まる前の段階で2人は同盟を結んでいたのである。
そう、この大会ではプレイヤー同士が手を組むことが禁止されていない。
そのため、そこを突いた一部のプレイヤーが協力関係を結ぶであろうことは、カイトはあらかじめ予想していた。
ならば、生き残る確率をあげるためにこちらも――と、カイトから同盟を持ちかけた形だ。
「じゃあ、いつまでも見晴らしのいい此処に突っ立ってる理由はない。城内に入って中の奴らに仕掛けるぞ!」
「了解ですぞ!」
そう言って2人が城内に入ろうとしたとき、庭から見える天守閣が――轟音と共にはじけ飛んだ。
「な、なんだ!?」
城内に向かおうとした足をいったん止め、急いで天守閣が見える庭の真ん中に引き返す2人。
そして見上げた天守閣は既に半壊。
その半壊した天守閣の土煙の中から、一人の男が現れる。
その男は――
「――スズハヤ!」
▽▲▽
ゲーム開始と共に彼――スズハヤが飛ばされたのは、簡素な和室であった。
「――ここは?」
視界に表示された他参加者のアイコンの位置から、自分はかなり高い位置に居るらしいとスズハヤは察した。
「高いことはわかるが、どこなんだろうか?」
そう言ってスズハヤは近くにあった窓から外を見る。
すると、そこからは朽ちかけたこの城を一望することができた。
「成る程、天守閣というところか――僕には相応しい」
するとスズハヤはそこにどっかりと腰をおろした。
「――なら、強者は強者らしく相応しい場所で戦うべきだ。つまり、僕はここで戦うべきだ」
そう言って腕組みをして、考え込む。
「幸いアイコンのおかげで、ここに僕がいることはみんなにわかるはずだから、隠れた扱いにはならない筈だし――さっそく誰か来たね」
下の階から上がってくるプレイヤーの存在を、アイコンで確認したスズハヤは立ち上がる。
「さぁ、最初は誰かな? 僕に宣戦布告した彼だといいんだが――」
――姿を現したのは、彼の知らない軽装束のプレイヤーであった。
そして、スズハヤの姿を見た途端、そのプレイヤーは露骨に嫌な顔をした。
「げっ、運がない。寄りにもよってオッズ一位様かよ!」
「なにかご不満かな?」
「不満だよ! あーあ、運よく上位者がつぶし合ってくれればオレにも優勝のメがあったかもって期待したんだがなぁ」
そう言ってその男は、大げさにため息を吐いた。
「――まぁいいさ、ここで一位様をオレが打ち取れりゃ会場も盛り上がるだろうよ」
「うん、君は向上心がある素晴らしい人だ。是非、僕を倒してみてくれ」
その男の挑発は、続くスズハヤの挑発にかき消された。
――もっとも、スズハヤ自身は挑発のつもりは微塵もない。
全てが本心なのだ――相手が自分を倒せることを期待していないことも、無謀な戦いに身を投じる勇気を褒めているのも。
しかし、そんなことは相手にはわからない。
「――死ね」
そういって頭に血の上った男は、背負っていた太刀を即座に抜刀。
そのまま太刀を構えて突進――剣技:猪突を発動させ、スズハヤに迫る。
一方スズハヤは、その抜刀と共に背負った巨大手裏剣――【魔剣:喰鉄】に手を伸ばす。
そして――
「――行け、“奥義:
――【魔剣:喰鉄】を投擲。
投擲した【魔剣:喰鉄】は、手を離れた瞬間異常な推進力を得、勢いのまま向かってきた男を縦に両断。
その勢いのまま、天守閣の壁を轟音と共に盛大に破壊した。
スズハヤは男の死に何の言葉も残さず、こう言う。
「うん、やっぱりちょっと壁を崩したほうが手裏剣を投げやすいね」
そう言って、壊した壁の淵に立ち、エリアを見渡したスズハヤは、一つの視線に気が付く。
「ん?」
その視線の先にいた人物に気が付き、彼は笑みを浮かべる。
「はやくこっちに来て、僕を倒して見せてくれ、カイト」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます