ACT.11 呪縛館の傀儡子(Ⅵ)

▽▲▽


 ――厳しい戦いは続く、

 カイト、レナの両名とも時間経過とともに、確実に押され始めていた。

「はははっ、大口叩いた割に大したことないな!」

 そう言ったリオナの放った斬撃を大きく飛びのいて回避したカイト。

 直後、その背がレナの背にぶつかる。

 2人は、部屋の中央で背中合わせの状態で追い詰められていた。

「ねぇ、これってだいぶまずい感じ?」

「――いや、ちょっとまずいぐらいだな」

 レナのその問いをカイトは少し訂正して返す。

 そして、レナはそのカイトの言い方にあること察する。

「“ちょっと”ってことは、カイトの中では打開策があるんだよね?」


「――あぁ」

 背中を合わせ、正面の敵を警戒しながら話を続ける。

「そこで言いよどむってことは、何か出来ない事情があるんだね?」

「――」

 打開案は、ある。

 カイトの中に、この状況を打開する術はもう思いついているのだが、一つ条件が足りない。

ソレは、レナとの連携。

この状況を打開するには、レナと息の合った連携が必要不可欠だ。

しかし、今までやってきたなかで、そんなことできた試しがない。

それが、今いきなりできるなんてはずがない。

そうカイトは思っていた。

 だが、言いよどむカイトの様子に、レナは察する。

「――ねぇ、カイト。私ってそんなに信用できない?」

「え?」

 レナのその言葉にカイトは動揺する。

「カイトはどうか知らないけどさ、私はいっつも君のこと信じているよ」

 彼女は、一瞬だけカイトに視線を向けてそう言った。

 そして、それを聞いたカイトは自分を酷く悔いた。

 ――連携がうまく取れない?そんなの当たり前だった。

 連携が取れない原因は、レナはの所為だけじゃなかった。

 ――カイトがレナを信用しきれていなかったし、彼女の期待に応えられていなかったのだ。

 “カイトなら避けてくれる”“カイトなら合わせてくれる”という期待を裏切り続けていたのは、他でもないカイト自身だったのだ。

 ――それなら、今のカイトに出来ることは一つしかなかった。

「レナ、これから――――にあいつらを叩き込む。手伝ってくれ」

「うん、任せて!」

 そういって力強く頷くレナを見て、カイトは小さく笑う。

 今のカイトができることはただ一つ。

 レナを信じること――ただそれだけだ。



「――頼りにしてるぜ、“相棒”!」



 こうして、彼らの反撃が幕をあげる。


▽▲▽


「なにをごちゃごちゃ話して――あ゛!?」

 しびれを切らしたリオナが攻撃を仕掛けようとした瞬間、カイトとレナが反転。

 カイトがカオルに、レナがリオナに向かって走り出した。

予想外の行動に反応が遅れたリオナに、レナの鉄拳が振るわれる。

「ちっ」

そういって咄嗟にガードするが、レナの職業が素手攻撃特化の“重拳士”。

ガードの上からでもHPを削るほどの強力な攻撃が突きささる。

――さっきレナが苦戦したのは攻撃に転じることができなかったから。

ゆえに一度攻撃が始まれば、一撃の重さがあるため相手は容易に反撃ができなくなる。

「はぁああああっ!」

 ラッシュを決め始めたレナの傍らで、カイトはカオルに蹴撃を放ちつつ、手元で印を結ぶ。

「なめるな!」

 そう言ってカオルは、蹴りの合間を縫ってカウンターとして拳をカイトの鳩尾に叩き込んだ――その瞬間。

「なぁ!?」

 ――その瞬間、そこにいたのはカイトではなく丸太であった。

「代わり身か!」

 “土遁:代わり身”は、攻撃を受けた瞬間に丸太を身代わりに、半径数メートル以内の任意の場所に移動する術。

 ――大体の場合、相手の背後を取るのが定石であるが、今回に限りカイトは違う場合に出現した。


「背中ががら空きだ!」


 ――レナのラッシュを必死に防いでいるリオナの背後である。

 そして出現と同時に背後をクナイで切りつけた。

「な、お前――!」

「――お前を倒せば、あっちの強化も終了だ。なら、お前から倒させてもらう!」

 そう、カオルの強化倍率はリオナ依存。

 つまり、リオナから倒せばいいという結輪になるのは火を見るよりも明らかであった。

「させるか!!」

 しかし、そんな弱点は向こうも承知している。

 踵を返して速攻でこちらにやってきたカオルが、カイトとレナに攻撃を仕掛ける。


 ――そこか先は大混戦となった。

 お互いが臨機応変に対応と攻撃対象を変え、相棒を守ったり守られたりという一進一退の攻防が続く。

 ――しかし、それも終わりが見え始めた。

 気づけば、カイトとレナは並んで部屋の隅――襖の前に追い詰められていた。

勝利を確信したリオナはいやらしい笑みを浮かべる。

「まぁ、所詮アンタらなんてこの程度ってことでしょ」

「コンビネーションだってアタシらの方が長くやってんだし、上手いのは当然っしょ!」

 そうやっていよいいよ調子に乗る2人。

 そこでカイトは――


「いや、さっさとかかって来いよ能無しナメクジ共。王手がかかってるのは実はどっちなのかおしえてやるからよ?」


 ――

「「こんのぉおおおおお!!」」

 一瞬で沸騰した2人は、それぞれが必殺の構えでカイトたちに突貫する。

 そしてその瞬間カイトとレナは――


「「せーの!」」


 ――後ろの襖に手をかけて、左右に大きく飛びのきつつ襖を全開にした。

「な!?」

「に?」

 急に予想外の行動をとられた2人は襖の外に出る寸前で、つんのめるように急ブレーキをかける――がしかし。

「「行け!!」」

 その2人の背を、左右にいるカイトとレナが同時に蹴り上げる。

「きゃっ!」

「あっ!」

 その衝撃で2人は襖の外の廊下に飛び出し、そこで盛大にしりもちをついた。

「いたたた、一体何!?」

 いまだにカイトたちの目的がわからず混乱するリオナが見上げたそこには――あくどい笑顔を浮かべたカイトの姿が。


「こいつが、このクエストの醍醐味だ。せいぜい楽しんでくれ」


 そういって、襖をぴしゃりと閉めた。

「いや、何言って――」

「り、リオナ」

 カイトの言葉の意味が分からず、ハテナを浮かべるリオナの耳に、カオルの怯えた声が聞こえた。

「え、カオルいったいどしたの?」

「あ、あれ、あれ!!」

 そういって震えた手で廊下の奥を指さすカオル。

 ついつい、そちらを見たリオナは――即後悔した。


 そこにあったのは異様に髪の伸びた日本人形――それが“大量に”という言葉すらおこがましいと思えるほどの数が、リオナたちを見つめていた。


 ――そしてそれらが、一斉に動き出す。






「「い、いやぁぁぁああああああああああああああああああ!!?」











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