ACT.10 呪縛館の傀儡子(Ⅴ)
▽▲▽
まず、小太刀を引き抜き切りかかってきた橙色の衣装の方の攻撃を、カイトはクナイで受け止めつつ叫ぶ。
「こいつらの相手は、俺とレナでなんとかする!だから拙僧さんは先にボス部屋に!」
「し、しかし――あと拙僧の名前は“拙僧”ではなくクロスと」
「この部屋の大きさで5人での戦闘は無理だ。だから拙僧さんは先に行ってくれ!」
「だから、拙僧の名前は――あぁ、もう御意に!すぐ、すぐに追いつくんですぞ!」
クロスは何か歯がゆい表情を浮かべながら、“エレベーター”に乗る。
「させるか!」
そこにすかさず二人組のもう片方――緑色の衣装の方が駆ける。
「――それは、こっちの、セリフ!!」
しかしその間にレナが割込み、鉄拳を振るう。
「ちっ!」
緑の方は、その鉄拳を躱す為に飛びのく。
その隙に、クロスの乗った“エレベーター”は稼働。彼を地下に連れて行った。
「――まぁ、いいわ。あんたらをさっさと始末していけばいいんだから」
「できると思うか?」
「はっ、よゆーよ」
そう言って、鍔迫り合いをしながら至近距離でにらみ合うカイトと橙色の方。
「あと、いつまでもナメクジだなんだといわれるのもシャクだし、名前教えてあげる――アタシはリオナ、あっちがカオルよ」
そう言って橙色の方――リオナが自己紹介をする。
――そして彼女はにやりと笑ってこう付け加える。
「あんたらをフルボッコにする奴の名前くらい、ちゃんと覚えときなさいね!――“奥義:
――そうしてリオナは、速攻で切り札を切った。
▽▲▽
リオナは、奥義発動と同時に、小太刀を握っていない左腕で簡単な印を結ぶ。
「金遁:銭礫!」
その瞬間、彼女の周囲に無数の硬貨が浮かび、それが礫になってカイトを襲う。
「――!」
礫を回避する為に、一歩その場を引いたカイトの隙を見逃さず、リオナは一歩前に踏み込み、小太刀で腹部を浅く切りつけた。
しかし、そこで通常とは異なる事象が起こる。
通常、攻撃によってダメージが発生すると、血のように赤いエフェクトが発生する――だが、リオナが切りつけた場合は異なった。
――ジャラリ、と複数枚の硬貨が宙を舞った。
「なん、金!?」
「――へへっ、まいどあり!」
動揺するカイトに追加で蹴りをお見舞いし、カイトが吹き飛ばされる。
――ジャラリ。
その蹴りが命中した時にも、ダメージエフェクトは発生せず、代わりに硬貨が宙を舞う。
「ちっ、どうなって!」
そう言おうとしたカイトだが、その隙をついて再びリオナが蹴りをカイトに叩き込む。
カイトはそれを腕でガードするが、そこで気が付く。
――攻撃のスピードも威力も、さっきより上昇していることに。
そしてまた、ジャラリと硬貨が舞う。
「冥土の土産に教えてやるよ!――アタシの“奥義:猫ニ小判”は、ダメージを与えると相手が受けたダメージと同量の金が稼げるって素晴らしい効果があってな!」
今度はリオナが拳を握りしめ、ガードのうえから殴りつける。
「そして!」
今度はガードの上からの攻撃にも関わらず、衝撃でカイトの身体が後退する。
――また、攻撃力が上がっている。
「アタシの職業は“
――つまりそれは、こちらがダメージを受ける度、相手のステータスが際限なく上昇するということにほかならない。
「これは――ちょっと舐めすぎたかもしれないな」
カイトはそう言って、構えを改めた。
▽▲▽
その頃、カイトたちの隣ではレナと緑の方――カオルの戦いが続いていた。
もっとも、こちらはカイトたちと比べてレベル差ランク差が少ない為、戦いは割と拮抗する筈だった。
――そうする筈だったのだ。
「ほら!ほらほら!!アンタ動きが鈍いよ!!」
「う、ぐう!」
こちらの戦いは、カイトたち以上に一方的だった。
カオルの攻撃を、レナがガードと回避でしのぎ続ける、ソレだけ。
その理由は単純だ。
――この狭い部屋で“鬼蜘蛛ノ怪腕”は使えないのだ。
そして、レナの戦闘スタイルは奥義あってのモノであり、彼女自身の素の格闘センスは普通の女子大生に毛が生えた程度のモノでしかない。
それでもまだ何とかなっているのは、ひとえに経験の所為であった。
「――ふう、なんだか飽きてきたな」
そんな中、突然そんなことを言ってチラリと隣に視線を向けるカオル。
そこでは、奥義を発動させたリオナが、カイトを猛烈に責め立ていた。
「あっちも結構あったまってきたみたいだし、そろそろもらうか――奥義:“
そういってカオルは自身の奥義を発動させた。
発動した瞬間、彼女の隣に狐の幻影が現れ、そしてその幻影は迷わず隣で戦っているシオナに憑りついた。
「これでよしっと。じゃあ、再開しますかねっ――と!」
次の瞬間、猛烈な勢いでレナとの距離を詰めたカオルは、その勢いを乗せたまま拳をレナに突き刺した。
「ぐ、くぅ――あぁぁああああああ!!」
レナはその攻撃を辛うじてガードするものの、そのまま吹き飛ばされる。
――その攻撃は何の体術も使っていない、素の拳――先ほどまでレナが普通に防げていたものと同じものであるはずなのに。
「な、なんで」
戸惑うレナに、カオルはしたり顔でこういった。
「あたしの奥義:“其方ノモノハ我ノモノ”は、任意の相手のバフをそのままコピーする能力なの――つまり、あっちのシオナが強くなればなるほどあたしも強くなるの、わかる?」
つまり、これは所謂“コンボ”。
2人の能力特性ががっちりかみ合い、その価値を跳ね上がるベストマッチ。
――これを突破しない限り、カイトとレナに勝ち目はない。
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