ACT.9 呪縛館の傀儡子(Ⅳ)


▽▲▽


「――なんか、大変なことになっちゃったね」

 さっきのひと悶着のそのすぐあと、2人に駆け寄ってきたレナがそう言った。

「悪い、腹が立ったんでついついやってしまった。だから、レナは来なくても――痛っ」

 申し訳なさそうに、レナに謝るカイトの顔にレナがばしっと手刀を落とす。

「何言ってるのさ、私たちは友達でしょ?なら、手助けするにきまっているじゃない?」

「――レナ」

「それに、わたしだってあの物言いには頭に来てるんだからね!」

 そういって鼻息荒くファイティングポーズを取る彼女の姿を見て、彼女と友人でいてよかったなとカイトは改めて思った。

 そんな中、その場にいたもう1人が口を開く。

「この度は助けていただき、誠にありがとうございます。拙僧は、クロスというものです」

「あぁ、俺はカイト、こっちはレナだ」

「うん。今回はよろしくね!」

 そうやって挨拶をかわす三人だが、ここでレナはあることに気が付く。

「――ねぇ、さっきの感じの悪い2人はどこに行ったの?」

「あいつらは、もうさっさと行ったけど」

「はぁ!?」

 レナのその問にあっさりとカイトが答える。

 もともと、クエストの受注だけはしていたらしい二人は、さっきの会話が終わった瞬間、ゲートに向かって走り出していたのだ。

「あの時、カイト“同時に受けて”って言ってたよね!さっそく破ったの!?」

 そういってレナは憤慨する。

 しかし、そんなレナと対照的にカイトはかなり冷静だ。

「――いや、この方がむしろ都合がいい」

「へ?」

 カイトのそんな発言に、レナはあっけにとられたような声を出す。

「さっき言ったじゃないか、“今日こそはイケる”って」

「う、うん」



「断言する。――この勝負、俺らの勝ちは揺るがないってね」



▽▲▽


 ところ変わって、『呪縛館の傀儡子』を受注し、カイトに案内されるがままに絡繰屋敷の一室にたどり着いた三人。

「あれ、ここって、昨日私たちが最後に来た部屋だよね?」

「――あぁ、この奥の襖の先に、昨日の通路がある」

「キノウ ノ ツウロ?」

「呪いの人形が大量に――」

「ヤ、ヤメロー」

 頭を抱えて、虚ろな目でがたがた震えるレナ。

 いった本人であるカイトを青い顔して震えていた。

「な、なにがあったのですか?」

「――拙僧さん、知らない方がいいことって、あるのよ?」

「レナ殿、拙僧の名前は“拙僧”ではなくクロスでございます」

 そんな2人のやり取りをしり目に、カイトは部屋の隅に――部屋の隅の壁に近づく。

「カイト殿、その壁がいかがされました?」

「――寸法が合わないんだよ」

 そういって、ぺたぺたと壁を触る。

「このゲーム、所謂オープンワールドゲームみたいに、フィールドの寸法とかは現実に即しているというか、不自然さがないんだよ。――けど、此処だけは違う。この周辺の部屋の大きさとかを考えてみると、ここに――」

 カイトがそうやって例の壁を手で叩く。

 すると、コーンコーンという――空洞音が響いた。

「――人2~3人分が入れるくらいのスペースが隠されていることになる」

「なるほど、慧眼ですな――しかし、そんな狭いスペースがボス部屋でしょうか?」

 そんなクロスの言葉を受けつつも、カイトは手でわさわさと壁を触り続ける。

 そして、ひとつの小さな窪みを見つけたカイトは、迷わずそれを押す。

 すると、ガコンという音と共に、壁が横にスライドして機械的なスペースが現れる。

「――これは?」

「“エレベーター”かな?屋敷に二階はないから、おそらく地下行き。そこが多分ボス部屋になるんだろう」

 それから、いまだにダメージが抜けきらないでいるレナにカイトは近づき、声をかける。

「レナ、出番だぞ」

「え、ボス戦!?」

 なんだかんだで話を聞いていたらしいレナががばっと起き上がる。

「や、やっと私の火力が活躍でき――」

「――いや、それはない」

「え、なんで!?」



「――いるんだろ?ナメクジ二人組」



 次の瞬間、どこからか飛来した二枚の手裏剣がカイトを襲う。

 しかし、その流れをあらかじめ予期していたカイトは難なく避ける。

 そして、それが飛来した方向に向けてクナイをカウンターのように投擲する。

 その投擲した方向にあったのは、ただの壁――だったのだが

「――ちっ、ばれてたか!」

 突如その壁が――否、壁に擬態していた紙がはがれ、クナイを叩き落とす。

 壁紙のはがれたそこには、件の二人組がいた。

「――え、え!?い、いつからそこに!?」

「落ち着けアホ。別に不思議なことじゃない」

「――へ?」

 本気で分かっていなさそうなレナに、カイトは小さくため息をつきつつも解説する。

「あいつら2人はおそらくこのクエストに参加したことがまだないのは、予想していた。そんな奴らが、事前調査ほぼ必須みたいなこのクエストを最速クリアする方法は一つしかない」

「全然わかんない」

「なら話の腰を折るな」

「いたっ!?」

 そう言って、レナの額にデコピンをして、カイトは話を戻す。



「ちゃんとしたルートを知っているプレイヤーの後をつけて、最終的に後ろから殺して成果をぶんどるっていう――如何にも三下が取りそうな作戦がな」



「――はっ、雑魚にしては少しは頭が回るようね」

「そんな雑魚に寄生して取る成果は美味いか、寄生虫?」

「――死ね」

 その一言が戦いの合図となった。









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