ACT.6 呪縛館の傀儡子(Ⅰ)
そこは、荒れ果てた焼野原であった。
吹き抜ける乾いた風を遮るものは何もなく、ただ、そこかしこに点在する燃え残った家の残骸が、この場所が元々村であったことを匂わせる。
――戦に巻き込まれたのか、賊に焼き討ちにされたのか。
そんな場所には怨念が集まり、それにつられて妖魔共もやってくる。
事実、その場所には無数の小鬼が住み着き、近隣の村に悪さをしていた。
そんな鬼達の討伐が、この日カイトとレナが受けたクエストだった。
「このクエスト、小鬼何匹の討伐だったけ?」
クエスト受注でこのエリアに飛ばされてきた途端にレナがカイトにそう聞く。
カイトはクエストちゃんと見てなかったのかよ、とは思いながらもすぐに答えた。
「二人合わせて、小鬼10匹。そいつら討伐でボス出てくるから――」
「おっけー。じゃあサクサクやっちゃうか!」
二人がそんな会話をしているうちに、焼野原の地面には一つ、また一つと黒い影のような染みが現れる。
『GYU、GYURURURURU――』
その影の染みから這い出してきたのは、赤黒い皮膚をした子供のような体格の妖魔・小鬼。
今、一度に出現した小鬼の数は10匹。
その小鬼たちは出現するや否や、棍棒を振りかざし二人に向かって走り出した。
「――いや、レナは何もしなくていい」
「え?」
「お前の力はボス攻略で使いたいから、今はMPもSPも温存していてくれ。大丈夫だ――」
次の瞬間、先頭を走っていた小鬼の眉間にクナイが突きささり、1匹目の小鬼が消滅した。
クナイを投擲したカイトは、一切小鬼方を向いていない。
「――今の俺なら、小鬼の10匹程度、一人でもなんとかなる」
「へー、ずいぶん自信満々だね。この前まで体格差の所為で苦戦してたくせに」
「身長差50cmもあったら誰だってやりずらいだろ!?」
そんな風にカイトは会話をしながらも、一切手は休ませていない。
レナとの会話に集中しながらも並行してクナイを投擲。
そのどれもが的確に小鬼の眉間を捉え、一撃で消し去っていく。
そうして、小鬼たちが接近戦を仕掛けられる間合いにまでたどり着いた時には、その総数は6匹にまでなっていた。
「じゃ、ちょっと残党狩ってくる」
「いってらっしゃーい」
ちょっと山へ芝刈りに、的なニュアンスで小鬼を殲滅しにカイトは駆け出した。
レベルアップを経て更に上がった速度を生かし、全速力で1匹目に接敵。
『GUR――』
そのまま速度を落とさずに、勢いを乗せて体術:手刀で首を跳ね飛ばす。
「1匹」
断末魔も満足に上げられなかった小鬼の生首をそのまま反対の手でわしづかみにし、次の小鬼の顔面に向かって全力で投げる。
その投げた生首は、二匹目の顔面に直撃。――その小鬼は、頭蓋の大部分を陥没させ絶命した。
「2匹」
投擲した瞬間に、その隙に近づいてきたもう1匹の小鬼がカイトの背後から奇襲をかけた。
『GURRRRRRRRR!!』
大きく振りかぶった棍棒は、カイトの背に命中――することなく、空を切る。
『GUR?』
突如消えたカイトに困惑したのもつかの間、大きな影が小鬼の頭上をよぎる。
――カイトだ。
頭上に垂直に飛び上がることで攻撃を回避した彼は、着地と同時にその手に持ったクナイを、小鬼の脳天に深々と突き刺した。
「3匹――あとはもう、面倒だ」
すこし離れた位置にいた残り3匹の小鬼の頭上に向かって、カイトは腰にぶら下げていた大きめの瓢箪を放り投げる。
さらにその瓢箪に向かってクナイを投擲――割れた瓢箪から中身の液体がぶちまけられ、ソレが発する異様な匂いがあたりに広がった。
『GU?GURR?』
その正体は、この世界では「燃える水」と称されるアイテム――ガソリンである。
カイトはそのまま、二本の指先をガソリンを被った3匹にむけ――
「火遁:狐火」
――容赦なく着火した。
炎は爆発的に燃え広がり、3匹を燃やし尽くす。
最早、断末魔すら上げることもできず、小鬼たちは炎の中に消えた。
――小鬼たちが出現して、全滅するまでの間は僅か3分未満であった。
「レナ、そろそろ出番だ」
そんな小鬼たちを倒したことなどなんとも思ってない様子のカイトは、レナに
声をかける。
『GUGAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
それとほぼタイミングを同じく、大きな咆哮が大地を震わせる。
大咆哮と共にひび割れた地面を引き裂いて現れたのは、全長5mほどの甲冑をまとった落ち武者のような風貌の赤鬼だった。その手には身の丈ほどの大太刀。
――お待ちかねの、ボスの出現である。
「はーい、じゃあいつも通りの手はずで行くね!――奥義:鬼蜘蛛ノ怪腕!」
「了解、先行して隙を作る!」
レナは、その場で鬼蜘蛛ノ怪腕を発動。それと同時に両手で次々と印を結び、複雑な術の構築を始める。
そしてカイトも、その場から赤鬼のもとへ急行しながら、両手で印を結び新たな術を発動させる。
「隠遁:影分身!」
カイトがそう唱えた瞬間、走る彼に追随する影が二つに分かれ――彼と瓜二つな分身が二体生まれた。
隠遁:影分身とは、通常の分身と違い実体を持った分身を生成する忍術であり、最大二体まで同時に生成可能。そしてある程度の行動を、術者が操作できる。
生み出された二体の分身はカイトの前を先行し、進行方向の離れた位置にしゃがみ込み、向かい合って腕を組み合わせて“台”を作る。
「――よっと!」
そしてその“台”にカイトが足をかけた瞬間に、分身たちは一斉に勢いよく立ち上がる――それに合わせてカイトも跳躍し、彼は一気に5m近い高さまで大跳躍する。
その空中でまた別な印を手で結ぶカイトだが、敵はそれを許さない。
『GARRRRRRRRRRRRRRRR!!』
赤鬼は咆哮と共に振り上げた大太刀をカイトめがけて降り下ろす。
空中で回避行動が取れないカイトは為すすべもなく真っ二つに――。
『GURAA!?』
――しかし、実際に真っ二つになったのはカイトではなく、彼のいた位置に突如出現した丸太であった。
「――“土遁:代わり身”ってね」
次の瞬間、赤鬼の真上に現れたカイトは右手を顔の横に添える。
「たんと喰らいな!」
そこから地面に着地するまでの刹那に計五回、赤鬼の頚と心臓付近の弱点部位に手刀を連続で叩きつける。
そして赤鬼は突如としてよろめき、地面に膝をつく。
―-体術:手刀の追加効果である、【昏倒】の状態異常が発動したのだ。
「よし、きた!」
こうしてお訪れたチャンスを、レナは見逃さない――その手は既に術を組み終わっていた。
レナは自分の周囲の地面に、次々と巨爪を――アンカーを刺す。
つまり、これからレナが行う術は――。
「喰らえ!“火遁:業魔・火生三昧“
――一撃必殺の大火力技である。
レナのもとから、大蛇のような炎の奔流が放たれる。
その圧倒的な熱量の渦に呑まれ、赤鬼は――
「ちょ、ま、俺まだ避難してなぁぁぁあああああああ――」
――ついでにカイトも、呑まれて消えた。
▽▲▽
カイトが『CO-ROU・THE・CHRONICLE』をスタートして、早数日。
今日も二人は元気に、この殺伐とした世界を満喫していた。
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