閑話休題その1 天神玲奈のちいさな野望
深夜0時、慎二たちが通う大学にほど近い高級住宅街にある天神邸の一室にて、レナ――天神玲奈が『CO-ROU・THE・CHRONICLE』の世界から帰還する。
「ふぃー、あー楽しかった!」
最新型エルドラドを外してベッドの上で満足気な表情を晒す玲奈。
「ふひひひひ」
しかしその満足気な表情は、すぐににへらっとしただらしのないモノへ変化する。
「――今日は最高の一日だったなぁ、あの凧谷くんを『CO-ROU・THE・CHRONICLE』にひっぱり込めるだなんて!もう、自分にハナマルあげたい!!」
近くにあった虎のぬいぐるみを手にとり、胸にぎゅっと抱きしめる。
心なしか、その虎の表情は普段仏頂面な慎二に似ている気がした。
「あ、そうだ!」
何かに思い至ってがばっとベッドから起き上がった玲奈は、机に向かい、その引き出しから一冊のノートを取り出す。
そのノートには、表紙に『野望実現ノート』とやや物騒な名前が書かれていた。
「けど、これで私の“第一の野望“は無事達成だよね」
そうって彼女はノートを開き、その最初の方にあるページを出す。
そこには『第一の野望:凧谷くんに、名前で呼んでもらう』ということが書いてあった。
レナはその項目に赤ペンで大きく〇をつけた。
「はー、長かった!であって二年、此処まで長かった!ゲームにかこつける形ではあるけど、一応カウントしてもいいよね!」
――そう、この『野望実現ノート』とは、なかなか慎二との仲を友達以上に進められない玲奈が書いた目標ノートであった。
最初の目標の程度が低いのは、玲奈がその手に関して
「ふひひひひ、やった!やった!」
そのノートを手に掲げ、満面の笑みを浮かべる玲奈。その異様な喜びようは、玲奈が美少女だということを加味しても、少しキモチワルイ。
「じゃあ、明日からは次のステップだ!『第二の野望:一緒にデート』!!」
玲奈はそういって次の目標を高らかに叫ぶ。
――あえて言おう、現在深夜0時の住宅街である。超・近所迷惑。
しかしそう叫んだはいいものの――
「い、いや流石にハードル高いかな?一緒に学食でお昼くらいにしとこうかな?」
肝心なところで臆病になってしまう悪い癖が発動する。
しかし、そこでハッとした玲奈。
「はっ、いかんいかん!弱気になっては、恋だろうとゲームだろうと“チカラこそパワー”!押して押して押しまくらねば!!」
ネバーギブアップ!そういわんばかりに拳を天に向かって突き出し、叫ぶ。
――何度でも言おう。イマ、シンヤ0ジ。近所迷惑も甚だしい。
「そ、それに“ゲームのイベントが!”とかなんとか言えば多分連れ出せるし、それを口実にあっちこっち連れ出して、外堀から徐々に埋めていけば――」
そう言っている玲奈の顔は、恋する乙女ではなく、完全に悪だくみをする小悪党のソレである。
ちなみに言うと、彼女らの学科の学生たちは仲の良い慎二と玲奈の姿を見て「あぁ、この二人付き合ってんのか」と、とっくに思っている為、玲奈が埋めようとしている外堀なんてものは、はじめから存在していない。
しかし、未だに学科に友達0人な二人はこの事実を知らない。
「よし、明日から心機一転頑張るぞ!!君を絶対に振り向かせるんだから!!」
そう言ってふはははと笑う玲奈。――これを言うのは三度目だが、深夜0時だからね今。
そんな天神玲奈の深夜一人芝居かつ百面相を部屋のドアの隙間から、見つめる瞳があった。
玲奈があまりにも騒がしいので様子を見に来た、玲奈の母である。
具体的には「ふひひひひ、やった!やった!」~あたりからずっと見てた。
「――あの子、大丈夫かしら」
そんなアレを見たがゆえの当たり前の心配をした母は、後日娘の高校時代からの友人である慎二に電話で相談するのは、たぶんまた別の話。
――ちなみに、その時の慎二の回答はこうだ。
「安心してください、御宅の娘さんはいつも変です。通常運転です」
玲奈の恋路は、まだまだ険しそうであった。
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