ACT.7 呪縛館の傀儡子(Ⅱ)
▽▲▽
「い、いやーそれにしてもアレだよね、カイトの死に芸も板についてきたよね!?」
「――ほう、アレは“誤爆”とか“フレンドリーファイア”とかではなく、芸だと?」
「そ、そうだよ!カイトってほら、ユーモアがいまいちだから私が特訓してあげようと――」
「月の明るい晩だけだと思うなよ?」
「わぁああああ、ごめん、ごめんなさぁぁあああああい」
いつも通りの愉快なやり取りをしながら、ミナトに帰還した二人。
――ちなみに、誤爆云々の話もいつも通りである。
現状、2人の連携はいまいち上手くいっていない。
カイトは合わせようとはしているのだが、レナがいつも功を焦って足並みを崩してしまうのである。
「次、次のクエストではこんなことにはならないようにしますので!」
「そのセリフ、何度目?」
「んー、5~6度目?」
実に信用できない数字である。
「というか、それそろ俺は限定クエストに挑戦したいんだが?」
――このゲームには、複数のクエスト形式がある。
今まで彼らがこなしてきた通常のクエストは、常時解放されていて、一度に一組のパーティーが受注でき、クリアしても何度でも挑戦できる。
しかし限定クエストは、形式がまったく異なる。
解放されている期間は、常時そのクエストエリアが解放されていて、常に複数のパーティーが挑戦できる。
そしてなにより、クリアできる回数は一度きり。
――一つのパーティーにつき、一度ではない。そのクエストを一つのパーティーがクリアした瞬間に、そのクエスト自体が終了し、以後誰も挑戦できなくなるのだ。
ゆえに、推奨されるレベルが低いものでも総じて難易度が高い、しかし報酬も魅力的である為、人気も高い――そんなクエストである。
「えー、今なんか丁度いいのあった?」
「今だと、ルーキー向けで『呪縛館の傀儡子』ってのがあったな」
『呪縛館の傀儡子』。
それは簡単に言うと、主なき呪われた絡繰屋敷に潜入し、呪いの核である傀儡子を撃破するという内容のクエストである。
「昨日解放されて、まだクリアされてなかったはずだから、やってみないか?」
「うーん」
しかし、レナは渋い顔だ。
「だってアレ、探索メインのクエストでしょ?私はこう、“戦闘戦闘また戦闘!”みたいな、がっつりバトル系がいいんだけど?」
「――それ系だと、またお前に殺されそうだから一旦別な系統は挟みたいんだよ」
「すいません」
閑話休題。
そうこう話しながらクエストカウンタ―に到着した二人。
レナが、カウンターで完了報告をしている間、カイトはエントランスを暇そうにぶらぶらしていた。
「ん?」
暇していたカイトの目に、あるものが映る。
それは、エントランスの壁際にできた人だかりだ。
「なんだ、なんだ?」
興味を惹かれて、人だかりに近づくと、彼らはある張り紙に注目していた。
その張り紙の見出しには、大きく派手な筆記体でこう書かれていた。
「――『三代目“ジライヤ”主催! ルーキー応援サバイバルゲーム』開催のお知らせ?」
一見しただけではいろいろと情報が飲み込めなかったカイト。
その様子を見た、隣のプレイヤーがカイトに話しかける。
「あの、もし。もしかして、貴殿は新人プレイヤーでしょうか?」
そのプレイヤーは僧侶の格好の上に鎧をまとった、ガタイのいい男性だった。筋骨隆々なその体躯とは裏腹に顔はかなり優しげである――事実、カイトに率先して話かけてのだから、かなりフレンドリーな性格なのだろう。
「あ、あぁ。俺は数日前に始めたばかりなんでかなり世相に疎いんだ。良かったこれについて教えてくれないか?」
「うむ、心得た。――といっても、拙僧も新人故あまり期待はしないでくれると助かる」
「了解だ。まず、この人だかりはなんだ?」
「おぉ、そこですか!実はですな、先ほどここに、プレイヤー自主イベントの告知があったのですよ」
「――自主?そんなことできるのか?」
「左様。このゲームは“クロニクル”の名の通りプレイヤー自身が世界の歴史を作れるというコンセプトがあるので、プレイヤー側からの要望が運営に通りさえすれば、このような公認
自主イベントも行えるのです」
「なるほどな」
カイトはそう返事をして、改めて張り紙をよく読む。
そこには、こう書かれていた。
『【告知】来る4月31日(日)の午後1時より新規プレイヤー(下忍)限定の大会を行います。詳細は後日発表!』
「いやぁ、ジライや様も粋なことしますなぁ」
「――ジライヤ?コイツもプレイヤーだろ?そんなに有名なのか?」
「なんと!?」
その僧侶は、カイトの発言にひどく驚いた。
「――なるほど、ジライヤ様も知らぬとは、本当に始めたばかりなのですな」
「悪かったな」
「失敬失敬!悪気はなかったので許されよ――さて、ここでいうジライヤ様とは、“
カイトはその時、“称号職”という言葉を初めて聞いた。
「“称号職”とは、一時代に一人しかつけない最強の証明みたいな職業である。条件を満たしたプレイヤーが、当代の“称号職”をもつ者に『継承戦』を挑み、それに勝利すると次代の“称号職”者になるのです」
「負けた奴は?」
「“称号職”がはく奪されます」
なんともシビアなルールだと、カイトは思った。
しかし、その最強の証明とやらに、なにか心動かされるモノをカイトは感じた。
「もう少し詳しく教えて――」
「おーい、カイト~どこ~?」
「――すまない。連れが呼んでる」
「結構結構!続きはお連れ様に聞くとよろしい」
「サンキュー!いいこと聞かせてもらったわ!」
そういってカイトは踵を返して彼と別れる。
――こうしてカイトは、この世界最強の存在を初めて知った。
その心に、小さな闘志の種を芽吹かせながら。
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