ACT.4 虎狼の族が住まう世界へ(Ⅳ)


▽▲▽


「よし、弟子一号!まずはスキルについて確認だ!!」


「誰が弟子一号だ、誰が」


「まず、スキルは二種類、パッシブスキルとアクティブスキルがある!」


「聞いちゃいねぇ」


 ゲートを潜ると、そこはキャラメイクをしたときにいた道場のような場所だった。

 唯一さっきと違うのは、道場の真ん中に絡繰りの虎?のようなものが置いてあることだ。

 その虎の上には「かかし」と書かれたウインドウがポップしていることから、あれが所謂サンドバックのようだ。


「クエスト報酬やレベルアップ等で覚えたスキルは、パッシブは五つ、アクティブは四つまでメニュー画面でセットできるわ。ここでセットしてないと使えないから注意してね。試しにメニュー画面を開いて、ステータス画面を見てみて」


「了解」


 そう言ってカイトが心のなかでメニュー画面を表示させようとすると、少しのタイムラグ後、カイトの正面にメニュー画面のウインドウが表示される。

 その画面を、スマホを操作するような感覚で操作し、ステータス画面を表記させる。

 そこにはこう記載されていた。


プレイヤー名:カイト Lv.5

ランク:下忍ノ五

職業:白忍

副業:なし


HP(体力):100

MP(魔力):20

SP(技力):20


 STR(筋力):10

 END(耐久力):15

 DEX(器用):15

 AGI(速度):20

 LUC(幸運):10


スキルスロット(パッシブ)

投擲補正Lv.1

九死に一生Lv.1

なし

なし

なし


スキルスロット(アクティブ)

火遁:狐火

木遁:全集中

体術:手刀

体術:掌破


“奥義”

なし


「出したぞ」


「で、ステータスの各種意味は、たぶんゲーマーな君ならすぐわかると思うので省きます!」


 手抜きかよ、ともカイトは思ったものの、実際何となくわかるため、レナのソレはある種英断な気もする。

 まぁ詳しく知らないといけないであろう所もあるから質問はする。


「ちょっと質問いいか?」


「どーぞどーぞ!」


「LUCは何の判定に使うんだ?あと忍術のダメージはどこ依存?」


「LUCは各種攻撃のクリティカルや、罹る状態異常の判定、あと微々たるものだけど確立で発動するパッシブスキルの発動率に直結します」


「なるほど」


 それを聞いたカイトは、割と重要だなと心にとめた。


「次に忍術のダメージだけど、固定ダメージに追加で注いだMPによって倍率が上がっていく感じね。だから牽制技の狐火でも初心者と熟練者じゃ威力が段違いなのよ」


「忍術の使用にはMPが必要、ってことは体術はSP?」


「そうそう。どちらも時間経過である程度は自然回復するけど、そんなの大した量じゃないから、配分には気をつけてね」


 その辺はだいたいのゲームでは共通認識だなとカイトは思った。

 最も、ある程度共通認識を持たせてわかりやすくするのは、作る側遊ぶ側双方にメリットしかないわけだから当たり前ではあるのだが。


「じゃあ、パッシブスキルの説明するよ。パッシブスキルはその名の通り、常時発動型のスキル群で、初期だと九死に一生と投擲補正があるはずよ」


「あぁ、あるな。この横のレベルは、熟練度か?」


「そそ、何回か使ってく内にレベルが上がって、より使いやすくなったりするよ! じゃあ、投擲補正の方をまず使ってみよう! あのかかしに、装備しているクナイを投げてみて?」


 それを聞いてカイトは、手首の隠し部位に仕込んだ状態で装備していたクナイを取り出す。

 そしてそれを、かかしに向かって軽くに投擲してみる

 すると、碌に狙いを定めてなかったクナイは奇麗な軌道をえがいて、かかしの頭に命中する。


「おぉ!」


「こんな感じで、適当に投げてもある程度命中するようになるのが“投擲補正“。”九死に一生“は、超低確率で瀕死ダメージを受けてもHP10%で耐えるスキルだね」


「なるほど、初心者向けだな」


 更に言うなら、熟練者であればあるほど、補正系統のスキルなしで命中させることができるようになり、その分のスペースを別なスキルに割くことができる。

 そういった意味でも、初心者向けかつ、手軽に忍者感を味わえる良スキルであった。


「じゃあ次は、アクティブの方を教えてくれ」


「OK!アクティブは大きく分けて、MPを消費して放つ“忍術”と、SPを消費して放つ“体術”があるわ。じゃあ、まず忍術のお手本見せるね!」


 そういってレナは、右手の中指と人差し指を揃えてまっすぐ伸ばし、指先をかかしに向けてこう叫ぶ。


「火遁・狐火!」


 すると、指先から拳大の火球が現れ、かかしに向かって発射された。


「――とまぁこんな感じ」


「了解、じゃあちょっと真似して――火遁・狐火!」


 カイトもレナの姿を真似して、技名を叫ぶ。

 すると、レナと同じように伸ばした指先から火球が発射された。


「手で特定の形を作った上で技名をいうと発動するのか?」


「おぉ、飲み込みが早い!」


「まぁ、腐ってもゲーマーだしな」


 そう言って肩をすくめて見せるカイト。


「じゃあ次は体術ね!これは技名を叫ばなくてもいいんだけど――」


 そういってレナは右手を手刀の形に揃え、頭の左側に持っていく。

 するとその手に薄い緑色の光が宿る。


「こうやってその体術に合わせたポーズをすると、自動的に待機状態になるから、あとはそのまま振るうと――」


 レナが光を宿した右手を横なぎに振るうと、手刀が緑色のエフェクトをえがいて鋭く空を斬る。


「身体をシステムがアシストしてくれて、技が放てます。ちなみに今の技が、君も使える初期技の“手刀”ね?これには追加効果として、相手の急所――首や心臓の位置に当てると【昏倒】の状態異常を確立で付与できるの」


「なるほど、大体わかった」


「じゃ、後はステータス画面を見て、待機モーションとか効果とか確認したら、実践で練習してみよ?」


▽▲▽


 ――そして数分後。


「よし、あらかた確認終わったぞ」


「はいはーい。じゃあ、あのかかしを実践モードで動かすから倒してみて」


 そう言ってウインドウをレナが操作すると、今まで何をされても動かなかったかかしの目に光が宿る。

 そして――。


『GARUGAAAAAAAA!!』


 ――本物の猛虎さながらの咆哮をあげ、カイトに向かって襲い掛かる!


「いきなりか!?」


 心の準備もなしに、突然始まった実践にカイトは驚き、動揺する――がしかし、彼はかかしの鋭い前足による攻撃を瞬時に見切り、左手でいなす。

 それと同時に右手で掌底の形を作り、腕を水平に引く――すると、先ほどのレナのような薄緑色の光がその手に宿った。

 それをかかしの顎に向かって打ち出すと、鮮やかな緑の光が軌跡となりながら、掌底が下顎を捉える。

 これがレナが披露した手刀のほかにあった、もう一つの体術:掌破である。

 掌破は、手刀と比べて付随する追加効果はないものの、手刀よりもシンプルに高い威力が出る技であった。

 カイトの掌破が命中し、かかしの上半身が大きく仰け反る。

 するとカイトは、すかさず側転のように身体を回転させ、下から弧をえがいた軌道で右足でかかしの頚に回し蹴りを喰らわせる。

 掌破、回し蹴りと続けざまに弱点部位への連続攻撃を喰らったかかしの頚が、バキリと

音を立てて砕ける。

 かかしの身体が、道場の床の上に完全についた瞬間、かかしは光の粒子となり砕けて空間に溶けた。

 HP全損による撃破ではなく、急所部位破壊による即死撃破である


「――うそ」


「やっぱすごいな、フルダイブ!思った以上にスムーズに身体が動く!」


 自分がやったことをさも当然という風に流して、素直にフルダイブゲーム上での身体操作感覚に感動するカイト。


「――い、いや、おかしいでしょ!?」


「ん、何が?」


「何がって、今の動き全部!え、あのかかしそこそこ強い設定のはずだよ?しかも、ほぼほぼ不意打ちみたいなタイミングで動かしたよね、私?」


「不意打ちみたいなことした自覚はあるのか」


「むしろ狙ったわよ! それで倒された君を『おぉ、勇者よ。死んでしまうとは情けない』とかなんとか小粋なジョークでからかいながら、先輩面してこれからもいろいろ教えてあげようとしたのに!!」


「最低か、お前?」


 先日の講義室でのときを彷彿させるような冷たい視線を投げかけるカイトだが、興奮しているレナはそのことに気が付かない。


「なんで初心者なのにそんなに動けるの!?確かにフルダイブゲームって現実で運動苦手な人でも、慣れればアクションスター並に動けるけど、君初めて何時間目!?」


 そうレナに問われて、カイトは少し考えてから答えた。


「――50分ないくらい?」


「おかしくない!?」


「いや、現実でもスポーツは得意だし、これくらいはできて当然じゃないか?」


「にしたって!」


 カイトはこの時、“少し運動ができる”的なニュアンスで言ったが、実際の事情はだいぶ異なる。

 カイト――凧谷慎二は、本人に自覚こそないものの“異様に運動神経の良い”ヲタクであった。

 それこそ、現実の身体でもバク転バク宙くらいなら余裕でできる天性のセンスを持っている。

 本人はそれを特別なことだと知らないがゆえに、殊更他人に自慢はしてこなかったが、彼をよく知る友人たちはそろって「慎二はヤバイ」という。

 ――後日、そんなことを知らなかった玲奈の前でバク宙をして見せ、盛大に驚かれるのは、また別な話。


「あぁ、どうしよう私の完璧な計画が――」


「いや、がばがばだろ?」


「――こうなったら!」


 そういってレナは何かを覚悟したような表情で、道場の真ん中に移動し、カイトに向き直る。

 そして腕組みをして偉そうに仁王立ちになってふんぞり返る。


「さぁ、最後の課題だ!私を倒してみよ!!」


「――はぁ!?」


 その唐突かつ急ごしらえすぎる最終課題に絶句するカイト。


「いや待て、レナ。まず、レベルいくつ?」


「Lv25」


「五倍差じゃねぇか!」


 現在始めたばかりのカイトがLv5。レベル五倍差という、通常のゲームではどう足掻いても覆らないステータス差である。

 その差がステータスのみなら、まだ救いようがあっただろうが、片やゲーム中級者、片やフルダイブゲーム歴50分の超初心者。経験の差すら絶望的である。


「そこまでして先輩面したいか!?」


「したい!思いっきり威張り散らしたい!!」


「最低だ、お前!?」


 カイトは、あまりにも大人げないレナの態度に思わず頭を抱える。


「そして、このクエストのクリア采配は私にあるので、この条件を飲まないならクリアさせてあげませ~ん!」


「――どこまでも俺をがっかりさせるのが得意なんだな」


「さぁ、どうする!」


「どうするも何も――」


 そういってカイトはスッと眼を細める。

 細めたその眼には、先ほどまでのふざけた色はない。

 ――そこにあるのは、勝負に火がついた眼だ。


「こうなったら全力だ。初心者に負けても言い訳するな――よっ!」


 その宣戦布告と同時に、カイトはレナに向かってクナイを投擲――狙いは容赦なくその眉間だ。

 しかし、その狙いはわかりやすすぎた。


「そんな単純な狙いが当たるわけ――!?」


 レナはその狙いを瞬時に見切り、姿勢を少し変えるだけで狙いを外させる。

 だが、それはカイトも織り込み済み。

 経験差があるがゆえに、この程度の攻撃がやすやすと通用するとは思っていない。

 ――その投擲の真の目的は、視線の誘導。

 投擲した瞬間、レナの視線は自然とクナイに向かう。

 それを見越した上で、カイトはクナイの投擲と共にその場で姿勢異様に低くし、レナの死角に入る。

 その低い姿勢でレナの死角に潜みながら疾走し、いっきに距離を詰めた。

 それは、レナから見れば数秒前まで離れた場所にいたカイトが、瞬間移動のように突如間合いに現れたことに等しい。

 レナに接敵した時点で、カイトの掌底は既に水平に引かれ光を放っている。つまり、体術:掌破を瞬時に放てる状態であった。

 このまま、掌破をレナに向かって放とうとした瞬間、カイトはあることに気が付く。

 それは、表情。

 死角からカイトが現れた時には、驚いたように目を見開いていたレナ。

 ――だがそれは、次の瞬間別な表情に切り替わる。

 その表情は、今まで接してきた中では一度も見たことのない表情。

 眼を弓のように細め、口角を獰猛に釣り上げた顔。

 それはまるで、罠にかかった獲物を見る狩人――いや。

――旨そうな獲物を見つめる、捕食者のソレだった。

 ぞくりとした悪寒が、カイトの背筋を駆ける。

 しかし、時は既に遅かった。



「――“奥義:鬼蜘蛛ノ怪腕ワカナヒメ”」



 瞬間、巨大なナニカが空を切る轟音と共にカイトに振るわれる。

 カイトはトラックか何かに衝突されたかのような衝撃を受け、吹き飛ばされる。


「がはっ!?」


 そのまま、地面を2~3度バウンドしながら、最後は道場の壁に激突。


「――っ!」


 壁に激突した時の衝撃で、彼の呼吸は一瞬止まり、声にならない悲鳴を上げる。


「がはっ、ごほっ――はぁ、はぁ。な、なに、が」


 その場で崩れ落ちたカイトが、少しせき込みながらも顔をあげる。

 そして、顔を上げた瞬間に彼の表情は、驚愕に染まる。

 彼の目に映ったレナは、もう彼の良く知る彼女ではなかった。

 ――彼女の背中からは、身の丈ほどの巨大な爪を備えた、蜘蛛を彷彿とさせる歪な足が4本生えていた。


「――さて、ちょっと調子に乗りかけてる新参者カイトに教えてあげようかしら。この世界での“シノビ同士の戦い”って悪夢モノを」



 ――これが、この『CO-ROU・THE・CHRONICLE』の真骨頂。

 唯一無二の異能“奥義”を携えたシノビ同志の戦い。

 カイトにとって、その最初の1戦目の火蓋がこの瞬間、切って落とされた。





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