ACT.2 虎狼の族が住まう世界へ(Ⅱ)

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『CO-ROU・THE・CHRONICLE』。

 昨年夏に発売した「エルドラド」ハードのフルダイブ型VRMMOゲーム。

 プロやその筋の専門家から「この先10年はコレ以上のVRMMOは存在できないだろう」と言わしめた傑作。

 プレイヤーは、超常的な力を持った戦士『シノビ』となって、さまざまなクエストをこなし、スチームパンクと戦国が混ざったような世界を駆けめぐる。――そういったコンセプトの『CO-ROUシリーズ』の10周年記念タイトルにして、初のMMO作品。

 プレイヤーは唯一無二の『シノビ』として、世界中のライバルたちとしのぎを削り、三国の陰謀渦巻く乱世を生き抜き名をあげるという内容の、結構殺伐とした印象のゲーム。

 世界中の人々が同じサーバーでプレイできるという点と、プレイヤーごとに異なる性能を発揮する“奥義”システムで他VRMMOと差別化されている。

 専門外である慎二のもとにさえ、そのくらいの情報が入るほど、世間の話題を攫った――否、掻っ攫い続けている神ゲーである。

 

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「まさか、コイツをプレイする日がくるとは・・・」


 玲奈との買い物で買った『CO-ROU・THE・CHRONICLE』のパッケージ版を、アパートの自室で感慨深げに眺める慎二。

 時刻は午後7時45分。ゲーム内で玲奈と待ち合わせしたのは8時だから、キャラメイクにかかる時間を踏まえて、そろそろゲームをスタートさせねばならない時間だ。

 玲奈から貸してもらった旧式「エルドラド」にパッケージ版のデータはインストール済み。あとは頭にセットして起動させるだけなのだが、ちょっと怖い。

 慎二からすればフルダイブなんて未知の世界。少々恐怖心があったとて、それは普通のことである。

 そんな未知の恐怖にウンとかスンとか言っていた慎二だが、あらかじめ10分前に鳴るように設定していたスマホのアラームが鳴り、慎二に時間を知らせる。


「ええい、ままよ!」


 元来まじめな気質の慎二にとって、未知の世界へ飛び込む恐怖より、待ち合わせ時間に遅刻する方がよっぽど嫌なことであった。

 意を決して、ヘッドギア型をしたフルダイブゲーム「エルドラド」を頭にセットし、ベットに横になる。

そして電源をONにして、起動に必要な最後のワードを唱える。


「接続、開始!」


 その言葉を発するとともに、慎二の意識は電子の世界へ吸い込まれていった――。


▽▲▽


 目が覚めると――現実の慎二自身は眠っている状態なのでこの表現もおかしな話だが、兎に角気が付くと、木目調の床の道場のような場所に慎二は立っていた。


『はじめまして、『CO-ROU・THE・CHRONICLE』の世界へようこそ』


 すかさず機械的は女声のアナウンスが入る。


『早速ですがキャラクターを作成してください』


 そっけない声でそういわれた瞬間、目の前にいくつかのウインドウが現れた。

 どうやらコレで詳細なキャラクターを作るらしい。

 ざっくりとした体格と性別などは、事前にインストールしていたものを使うので、ここでは顔や恰好を作りこむのがメインだ。

 ちなみに、このゲームだけでなくフルダイブゲーム全般に言えることだが、ゲーム内のキャラクターの体格と性別は、現実の自分と大きく変えることはできない。

 体格に関しては、実際に違いすぎる体格を同じ要領で動かすとズレが生じるから。性別に関しては、セクシャルコードの関係と、現実と違う性別を演じることで精神に変調をきたす可能性が万一であった場合問題になるから、だったはずである。


「――よし、こんなもんかな?」


 なんだかんだでさっさとキャラメイクを終えた慎二が、最終確認ボタンをクリックする。

 すると目の前に大きな姿見が現れ、慎二自身の姿を映し出す。

 服装は忍者というより動きやすい和装といった感じに、身体は身長体格こそ現実と変わらないもののやや筋肉質に、肝心の顔は現実の顔をベースに違和感のわかない程度にいじった――イケメン風にした感じとなった。


「――まぁまぁ、かな?」


『プレイヤー名を設定してください』


 姿を決定すると、次に名前を決めろというアナウンスと共に、見慣れたPCと同じ形式のキーボードが現れた。


「名前は、そうだな。“カイト”でいいか」


 自分の苗字“凧”谷からとった安直なネーミングをうちこんで、決定する。

『キャラクターメイキングが完了しました。三分後に『CO-ROU・THE・CHRONICLE』の世界に転移しますので、それまでにご自由に動作確認をお願いします』

 そのアナウンスを聞いた慎二――カイトは、三分後の転移にそなえて、必要と思われるウォーミングアップを始めるのであった。


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