◇
言って、伊綱は紺色の包装紙に包まれた平らで薄いものを手渡してくる。
「え、プレゼント?」と、どぎまぎする。まさかのサプライズ、しかし、お祝い事等、思い当たるものがない。嬉しく、不思議に思っていると、伊綱は真っ直ぐ前を向いたまま口を開く。
「いつも、俺のこと外に連れ出してくれたりして、ありがとう」
――うっかり、プレゼントを落としてしまいそうになる。うっかり涙が目元からこぼれ落ちてしまいそうなぐらい、伊綱の言葉が胸に沁みわたる。あの伊綱が、こうして言葉にして感謝の気持ちを伝えてくるなど、今まで一度たりともなかった。初めて、伊綱に「ありがとう」と。
求めていたのは言葉ではなく、しかし、思った以上に――くる。口元をぎゅっと結び、涙を必死に堪える。
「何その顔」と伊綱がからかってくるが、どうにもこうにも、嬉しさで言葉が中々出てこない。
「それ、ハンカチ。仕事で外にいること多いだろうから、使えるかなって思って」
「あう、さっそく使っていいかな」
もう隠すには限界で、包装を丁寧に剥がし、藍色のハンカチを手にして使うのが勿体ないと思いながらも、涙を拭う。
「ありがとね、伊綱」
「うん」
ピザを一切れ手に取り、伊綱が食べ始める。照れている様子のない、素直な顔に安心する。
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