◇
踏み込んだ質問がぽろっと口からこぼれ落ちる――伊綱は、突然踵を返し、その場を離れて行く。「え?」と手を伸ばすが、届かない。突然の伊綱の行動にぽかんとする。休日の人混み、団体客がやって来る。その人混みに掻き消されるように、伊綱の姿が見えなくなる。
呆然とする澄玲は「地雷踏んだ?」と口を開く。
(しくじった……!)
座り込み、頭を抱える。うっかり、少し踏み込んだ質問をしてしまった。職場の人と上手くやっているのかどうか、そんなもの――今までの伊綱を見て来たらわかることだ。コミュニケーションが乏しく、伊綱という人間性を勘違いさせてしまう性格、気質、行動。一番見てきて、一番わかっていたはずなのに――触れてはいけない話題だった。これは、完全にしくじった。
「あぁ……もしかして修繕不可? このショックはでかいぞ……」
ああ、やっぱりブラコンだ、と澄玲は感じた。彼氏、恋人がいたとしても、間違いなく、それ以上に伊綱が大切なのだ。だから今、しくじった今――死ぬほど後悔している自分がいる。
「……はっ!」
もしや、タブーに触れた澄玲を置いて帰ってはいないだろうか、と嫌な汗が噴き出す。置いて行かれることが恐ろしいのではない。置いて帰ってしまうほどの地雷に触れてしまったことで――伊綱の心を深く傷付けてしまったかもしれないことが、恐くなったのだ。
「伊綱……!」
こんなところで悲劇のヒロインを演じている場合ではない。すぐさま走り出し、これでもかと長い髪を振り乱す。眼鏡のずれも気にならない、そんなものは後でどうにでもなる。今は、どうにもならなくなってしまうかもしれない不安が、心を掻き乱している。
急に駐車場に車が増える。観光客が溢れ、さながらアメフトのランニングバックのように人を躱し、走り抜ける。駐車場の端、そこへ辿り着いて――息を切らして立ち止まる。
「はあ……はあ……車、ある」
レンタルした軽自動車はちゃんとあった。じゃあ、伊綱はどこへ? と振り返る。目を凝らし、眉間にしわを寄せる。遠く、レストランの前に立つ伊綱の姿を発見、即座に全力ダッシュ、伊綱の下へ駆け寄る。
「伊綱ぁっ」
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