温泉館から約二十分、田んぼや川、木々に囲まれた中を車で抜けて行く。その道なり、多少整備されてはいるが、風景は実に緑豊かな田舎といった感じである。似たような風景、景色、雰囲気が続くが、飽きない温かさを感じられる。伊綱は、わからない。

 目的地近く、開けた場所に出てすぐに牧場が見え始める。

「そこ右、広い駐車場」

「うん、目的地を前にナビされても」

「まあまあ、案外目の前にして見落とすこともあるし、気にしない気にしない」

 そういうものかな、と伊綱はバックで駐車場の隅っこに駐車する。展望良し、すっきり晴れた空は笑みがこぼれるほどの蒼天、実にお出掛け日和。今回はレストランの利用ではなく、持ち帰りを選ぶ。きっと、伊綱はゆっくりと食べたいと思っているはず。

「混んでるね」と伊綱は腹を押さえながら駐車場を進む。その隣を澄玲は歩く。

「土曜日だし、もしかしたら待ち時間あるかも。その時はごめん」

「いいよ、別に。待てば食べられるんだから」

 そう言った伊綱だったが、いざ店に向かってみると――待ち時間、一時間半という現実が待っていた。これには同時に驚がくする。険しい表情を浮かべ、目を点にして、口をぐっと閉じる。これに関しては双子っぽくシンクロしていた。

「まあ、待てば食べられるし」と澄玲は笑って誤魔化す。

「待つにも限度があるでしょ」と伊綱は真顔で返答する。

 とにもかくにも、注文、そして名前を記入して番号札を受け取る。待ち時間をどう潰そうか、とりあえず、ぶらぶら他を見て回ることに。伊綱はレストランの向かいにあるワイナリーへ入って行った。付いて行き、試飲の文字を見付ける。

「飲めば?」と伊綱は言うが、澄玲は旅先での飲酒をあまりしないようにしている。以前、お酒の席で失敗したことがあり、少々トラウマになっているせいだ。代わりにぶどうジュースを試飲する。濃いめ、しかししつこくない、甘ったるくもなく、のど越しもいい。

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