◆
(ないない)
数秒で否定、そろそろ一時間が経つ。結構長湯できるものだと湯船から上がり、温度差から若干の冷えに身体を震わせる。もう一度内湯に浸かって大浴場をあとにする。
外へ出て深呼吸、心地良いそよ風が内湯で火照った身体をゆっくりと冷ましていく。さて伊綱は、と一帯を見渡す。ちょこん、と座り込む伊綱を発見。どうやら飲泉があるようで、何とも微妙な顔をしながら柄杓を持っている。
「もしかして飲んだ? 美味しい?」
「味のない強炭酸って感じ」
「中でラムネ売ってたよ」
「そっちのほうがいい」
柄杓を戻して店内へ向かう伊綱――結構、伊綱をよく知らない人から自分勝手みたいに思われることがある。それは当たり前かもしれない。だが、とりあえずそれは間違いだ。伊綱は自分勝手というよりも、次の行動への動きが早いだけ。切り替えが早いと言えばわかりやすいのだが、中々理解はしてもらえない。
生き物に優しいし、子供にも優しい、気遣いも人並み以上にできているほうだ。しかし、そうは思われないことが多々ある。伊綱の良いところを澄玲はたくさん知っている。だが、全部伝えても理解をしてくれる人は皆無。伊綱がそういう生き方をしてきたのだから、しょうがないが――納得はできない。
店内でラムネを買い、ギャラリーがあるということで見て回る。そして澄玲の腹の虫がぐうと鳴く。
「お昼にしよう」
スマホ画面にこれから向かう場所、そこで提供されている料理の画像を表示させて伊綱に見せると、伊綱の腹の虫も鳴き始める。少し照れたような顔が見られて、少しだけ満たされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます