◇
「Oh……」と外国人のような声を思わず出してしまう。しかし、しばらく入っていると不思議なことに身体が芯からぽかぽか温かくなってきた。
(不思議風呂だ)
気泡が体中を覆い始め、そのおかげで産毛がはっきりとわかる腕を見て、手入れをさぼった自分を恨みたくなる。だが、肌を覆う気泡を水中で掃ってみると、恨みも一緒に気泡と共に浮かんできて消えていく。そして新たな気泡が付き始める。何とも面白い。
(伊綱、楽しんでるかな?)
天井代わり、日よけのシートから視線を外し、青空を見上げる――小さい頃、勘違いだったかもしれないが、伊綱は同級生からハブられていた。双子ということもあって違うクラスにされていたこともあり、はっきりとはわからなかったが、おそらく、ハブられていたのだろうと澄玲は今でも思っている。伊綱の性格は、あまり人付き合いに向いていなかったのだ。
感情を表に出さない性格で、小中高、家の中でも一緒だったのに、あまり笑った顔を見たことがない。楽しそうにしていることもほとんどない。家族とどこかへ行こうという話になっても「俺はいい」と断られてきた。とくに趣味があるようには見えず、今は土日祝と休みがたっぷりあるというのに、外出はおろか誰とも繋がっていないような日々を送っているのだから――姉として、ずっと気になっていた。当時の澄玲には、何をしてあげれば良かったのかがわからなかった。
考えに考え、自分の趣味に付き合ってもらうことで、少しでも伊綱を外へ連れ出そうという作戦に打って出た。家族全員では断られたが、自分単体であれ伊綱も考えてくれた。そして、押せ押せ! と言わんばかりに誘ってみたところ、ようやく折れたようで、澄玲の誘いに乗ってきてくれるようになった。遠方であっても、ちゃんと来てくれる。何だかんだいっても、優しい弟なのだ。
とはいえ、効果はまだ見られない。外へ連れ出してもさして変化はそれほどなく、ただただ淡々と一緒に居るだけ。これではあまり意味がないようにも思える。
(ま、そう簡単に変われないよね)
人それぞれ、致し方ない。それでも、やっぱり気になる。時々、もしかして自分は極度のブラコンなのでは? と思う時がある。心配を通り越しているような、そんな感じだ。
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