――ああ、これだ


 わかる、この感覚だ。この心を揺さぶられる感覚、無我夢中になって心奪われる、忘れようもない感覚。もう一度味わいたかった、満たされる感覚。

 空に舞い上がり割れて消えるシャボン玉。儚さの中から生まれる多くの笑顔、楽しげな声、幸せに溢れた表情。込み上げてくる感情は間違いなく、あの時と同じものだった。

 シャボン玉を飛ばしていた人物は持っていた道具を駆け寄ってきた子供達にあげると、ゆったりとした足取りでこちらへ歩み寄ってくる――彼は開口一番こう言った。

「きみはきっと出会っていたんだよ」

 サイコロに座り彼は語る。

「さっき見せてもらって思ったんだ。例の一枚以外、どの写真にも誰一人として人物は写っていなかった」

 はっとして、カメラを下す。

「景色や人物のいない風景ばかり。きみは多分……人が生み出すものに心を奪われるタイプなんじゃないかな」

「人が生み出すもの……」

「風景というよりも光景、いや……情景だ。心を突き動かすような、記憶にはっきりと残る、そういうものをきみは求めていたんだろう。さっき、軽度の人嫌いみたいになっているかもしれないと言っていたけれど、その原因は、きみの周囲に居た人達が生み出すものにきみが感動を覚えなかったからだからだろう。それは言葉にすると『不満』だ。だからきみはその『不満』から抜け出すために一人を選んだ。こればかりは仕方ないと思うよ。でも、人を嫌っているわけじゃない、身を置く環境がきみに合っていなかっただけさ。今撮った写真、見てみるといい」

 言われて、すぐに確認する。どの写真を見ても、人が写っている。それも、皆幸せそうな顔をしている。笑顔で、楽しそうで、自分の顔が緩んでいくのがわかる。自分が求めていた感覚が、今も尚、身体の中で脈打っている。

「私、よく見ていなかったんですね……」

「もしかしたら、僕みたいな赤の他人と出会うことが、きみにとっていいことなのかもしれない。だから、そういう意味では、きみが一人を選び、かつての環境から飛び出したことはある意味間違ったことではなかったんだろう」


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