「学生、中学生の男女だね。場所は奈良か京都かな。風情があってとても綺麗な写真だ……この色褪せた感じの琥珀色アンバー調はそそられる。うん、とてもいい」

「私が中学の修学旅行で撮った写真です。当時は設定がよくわからなくて、勝手にその色合いに」

「なるほど……これ、知り合いだよね?」

「知り合いも何も、二人共同級生です。それに、男の子のほうは……小学生の頃から好きだった人です」

 目を丸くさせた彼に、初めて私は表情を崩した。苦笑してカメラを手元に戻し、画面を見る。画面に映し出された写真には二人の男女、ずっと好きだった男の子と、同じクラスだった女子の姿。修学旅行先の京都、人の少ない裏路地で撮った写真だ。

「これ、女の子のほうが告白しているシーンなんですよ」

「おいおい」と彼は苦笑する。確かに、これは盗撮だ。それに。

「おかしいですよね、好きな人が他の人に告白されていて、しかも両想いだったことがわかった瞬間で、照れて笑い合う姿を……そんなものをわざわざ写真にして残しているんですから」

 今でもはっきりと覚えている。たまたま出くわしてしまったあの現場、ショッキングなシーンを目の当たりにして涙が溢れ出そうになった胸の痛み。お腹の奥から込み上げてくる負の感情。寒空に浮かぶ灰色の雲、微かに漂う雨の前のにおい。周りから聞えてくる音や奪われて消えていく体温――忘れようもない。今もはっきりと思い出せる。

「ショックでした。多分お布団があったらその場で寝込んでしまいそうなぐらい」

「だろうね、それは辛かっただろう」

 同情するような声、しかし、彼は何かを察したかのように薄らと笑みを浮かべている。苦笑したまま私は言う。

「でも、私はカメラを構えて、写真を撮りました。ショックで倒れそうだったけれど、悔しさや嫉妬がたくさん生まれて身体中に巡り始めていたけれど……そういうものが全部、掻っ攫われたように消えてしまいました」

 写真に写る二人は――あの時、私の目の前にいた二人は、まるで恋愛映画か何かの主人公とヒロインのようだった。

 幸せそうに頬を赤らめる二人、見つめ合い、心が繋がっているかのような笑顔――衝撃的で、一瞬にして心を奪われた。雲の切れ目、僅かなその切れ目から差し込んだ陽射しは、スポットライトのように二人を照らし出していた。まるで、大げさではなく、世界が祝福しているかのようだった。

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