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休憩をはさんで、唐揚げを食べ終え、手に付いた油を拭いてすぐカメラを構える。目の前には広々とした芝生が広がっている。青空と太陽のコラボレーション、ところどころに生えた大木。自然公園という名に偽りなし、と公園内へ足を踏み入れる。
ほとんどの人がシートを敷いてのんびりと休日の空気を満喫している様子。中には園内のジョギングコースを走っている人、芝生上でトレーニングやヨガをする人もいる。しかし、カメラを手に歩き回っている単独者は自分以外に見当たらない。だからといって「恥ずかしい」という思いは欠片もない。一人は嫌いじゃない。むしろ一人のほうが。
「……そうだよ、一人のほうが楽」
ぽつりと呟いて、ジョギングコースの傍らへ移動する。ジョギングに励む人達。屯っていた鳩が驚いて一斉に飛び去る。私の眼前を遮る灰色の鳩たち、その中に白い鳩が二羽見えて、何気なくシャッターを切る。悪い写真ではなかったが、別に残しておくほどの写真でもない。後で消そうと、再び歩き始める。
小一時間ほど歩き回り、休憩がてらジュースを自販機で購入。これだけ広い芝生があるにもかかわらず、私は隅っこの木陰でため息交じりに座る。
ある程度見て回ったが見付からない。自分が求めているものはここにもないのだろうか、そんなことを考えながら座ったままカメラを構える。カメラ越しの世界、映像を撮るようにカメラを動かして眺める。そこに自分が求めるものは映し出されない。確かに綺麗な公園で、自然あふれるこの場所は居心地も良くて悪くない。悪くない、が、そこまで。それ以上はない。ズーム、ズームアウト、空、木々、芝生。見える景色を映し出し、諦めるように言葉を漏らす。
「違う」
――言葉が重なる。驚いた。同じ言葉を、近くにいた男性が呟いたのだ。
あまりにも自然体に重なった言葉に、見知らぬ男性ではあったが思わず顔を向けた。その彼もまた私に顔を向けてきょとんとしている。彼の手には見るからに高そうな一眼レフ、そしてカメラケース他の荷物も本格的なものばかり。ただし――足元に置いてある蓋のない五面体木箱だけは浮いて見えた。
「きみも写真を?」
とても優しい声だった。見た目年齢は四、五十歳ぐらい。灰色の顎鬚、穏やかな顔立ちは他人でありながら心を解きほぐしてしまいそうな雰囲気を醸し出している――とはいえ他人、心のシャッターを程よく閉じて「ええ、まあ」と無難な返事をする。すると彼はにこやかに歩み寄ってくる。
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