第2話恋人たち

次の日も次の日も「おはよう」のメールから一日が始まった。

いつもの時間には電話が鳴り、出勤までの幸せな時間を過ごす。


「おはよう」「あのさ、俺明日誕生日なんだけどお祝いしてくれる?」

実際に会える訳でもなくどうやって祝えばいいのか戸惑った。

「うん。いいよ。お祝いしよう」

「やったー」

無邪気に喜ぶ彼に私まで嬉しくなった。


お互い本当の名前も何も知らない。

だけど付き合い始めた本当の恋人たちのように毎日を過ごす。

毎日どんな事をして過ごしたのか、どんな音楽を聴いているのかなんていう他愛もない会話を楽しんでいる。



「ちょっとコンビニ寄る」「一旦電話切る?繋げとく?」

「繋いだままがいいな」

「わかった。コンビニ入るよ」

コンビニを出ればまた掛けてきてくれるのが分かっていてもそのままでいたかった。

「お待たせ」

しばらく会話は続く。

「会社着いた」

「そっか、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


電話を切った後、私はプレゼント用の画像を探す事に夢中になっていた。

付き合い始めて初めてのイベント。

ワクワク、ドキドキが止まらなかった。


「おはよう」

今日もメールから一日は始まった。

「たぶん今日は昼くらいに電話出来ると思う」

「分かった。待ってるね」

なんだ、お昼なんだと思いながら私はプレゼント用の画像を準備し始めた。

突然電話が鳴る。

「おはよう。驚いた?」

「驚くよ。昼って…」

「大成功」

嬉しそうに彼は言った。

彼は自分の誕生日だという事を忘れているかのようにサプライズの成功を喜んでいた。

「今からちょっと買い物。その前にってな」

「びっくりしたよ」

「やった」

電話を切った後プレゼント用の画像を送り彼からの電話を待った。


昼には誕生日のお祝いを一緒にした。

誕生日のお祝いといってもいつも通りに会話をし、プレゼントやケーキの話をするだけで何も変わらない。

「名前分からないし、名無しになっちゃった」

「あっ、そうだね。俺大介」「俺言ったんだし名前教えてよ」

「うん。桃子」

「なんかイメージ合う」

私は照れて顔を赤くしていた。

「お誕生日おめでとう。大介」

「ありがとう。桃子」

ただ違ったのは、彼の名前を知ったこと。もちろん私の名前も伝えた。


この日を境に彼は自分の事を話してくれるようになった。

彼の事を知れば知るほど私は彼を好きになっていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る