第3話
「日和の
そう、日和の
こんな子ども部屋に線を引くようにしてカーテンを閉める。そのカーテン――日和の
「はぁ……」
私はため息をついて前髪の生え際に手をあてた。腫れていて、少し痛い気がする。さっき日和とけんかしているとき、床に頭を打ってしまったのだ。日和のせいであるとも、自業自得であるとも言える。
でも、そんなことはどうでもいい。今日、怜くんが話しかけてきてくれた。お昼休みに2人で話した。こんな良いことが、事実としてあったのだから。怜くんに、恋愛対象として見られたいなんて思ってない。好きっていうよりは憧れに近いし、幼い頃から――怜くんと日和が小1の頃から仲良くしてもらっているのだ。年下の女の子を恋愛対象として見てもらうのはそれなりに難しいことだろう。
思い返せば、私が日和のことを呼び捨てで呼ぶようになったのは怜くんの影響だ。怜くんが“日和”と呼び捨てで呼ぶから私もまねしたのだった。怜くんへの想いは今に芽生えたものではなかったのかもしれない。私が日和を“ひよにぃ”と呼ばなくなったあの日から、怜くんが気になっていたのかもしれないな。
あ、怜くんのどこが好きなのかって? やっぱり、日和と違ってかっこいいところかな。サッカー部のキャプテンで、勉強も比較的できる。優しくて、シャイな一面もある。日和も数ヶ月前までサッカー部の副キャプテンだったけど、怜くんとはオーラが違うんだよな。怜くんは日和よりもスポーツが得意で日和は怜くんよりも勉強ができる。2人はことあるごとに競い合っているよき親友、ってとこかな。
ここまで考えてふと思ったのだけれど、どうして日和をかっこいいと思えないんだろう? 日和が日和だからかな? そういうことにしておこう、うん。
たん、たん、たん、たん。
リズミカルに階段を上ってくる音。恐らく日和だ。
「お父さんのせいで見たかったテレビ20分で終わっちゃった」
扉を開けた足音の主はそう言った。声から察するに、けろりとした表情をしていることだろう。振り向いて答え合わせをする気にはならないけど。
「そっか」
私の冷たい反応に、きゅいっと音を立てたのは日和が座った椅子だろうな。
「好き? 怜のこと」
カーテン越しのその声には、からかうような気持ちが少しも感じられなかった。
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