第2話
「「「「いただきま~す!」」」」
梶谷家が奏でるカルテット。お父さんがテノール、日和がアルト、お母さんがメゾソプラノ、私がソプラノってとこかな。なーんて、目の前に料理が並んでいる限りはのんきにそんなこと考えている場合じゃない。
お茶碗の右側にお行儀よく並んだ味噌汁を飲み、ひじきの煮物を箸で口に入れる。
日和を横目に見ると、無言で焼き魚をもっしゃもっしゃと食べている。怒っているというよりは、なにか考えごとをしているように見える。
「君たち、またけんかしたの?」
私たちを交互に見て訊いてきたのはお母さん。お父さんは野球観戦で忙しそうだ。
「うん、まぁ」
ひじきをほおばっている私に代わって答えたのは焼き魚を飲み込んだ日和だ。
「うちは一軒家だからいいけど。マンションだったら下の階の住人さんに迷惑かけちゃうから仲良くしなさい」
ということは、さっきも1階に音が響いていたということだろう。
「ごめんなさい」
日和はというと、ほかほかのご飯を口いっぱいに含んでいて謝罪の言葉はないものの、顔には「一応反省してます」と書いてある。怒りはある程度消えたものの、完全になくなったってわけじゃなさそうだ。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
この四重奏だけはそろうけれど、このあとの行動はたいていそろわない。日和は、チャンネルを変えてくれとお父さんに交渉を始める。見たい番組があるらしい。が、お父さんは野球に夢中で取り合わない。それを見て困ったようにほほえんだお母さんは、食器を洗うためにキッチンへ向かう。空気を読んだ私は、自分の食器だけでなくお父さんのも下げることにした。日和のは下げてあげないけど。
シンクにそーっと食器を置いて立ち去ろうとすると、冷蔵庫におかずを片付けているお母さんが反応した。
「あれあれ? もうすぐ10歳になる小春ちゃんはお皿を洗ってくれないのかな?」
10歳というのは年齢が2桁になる歳で、どこか特別な気がしている。人生において年齢の桁が増えることは基本的に1回、あっても2回だけなのだから。だから、家の手伝いくらいはしなきゃならないとは思う。ただ、今日は日和とのけんかで精神的にも体力的にも疲れている。
――そんな言い訳を心の中でして、
「聞こえませ~ん!」
耳に手をあてお母さんの前を走り抜ける。
「こら、小春っ!」
すると、さっきまでの冗談めいた優しい声は一変して鋭いナイフのような声がこちらに飛んできた。うひゃあ、鬼だ。
「ごめんなさーい!」
そう謝っておきながらも、キッチンには戻らず子ども部屋までダッシュ。階段から最も近かった開けっ放しの扉に滑りこんでバタンと閉める。子ども部屋にはドアが2つある。ひとつは階段に最も近い日和の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます