小春日和
齋藤瑞穂
青き春は訪れるか
第1話
ぼすっ。
テディベアがオーナーとなっているベッド。私はそこに倒れこむようにして身を預ける。すると
とまぁ、仕事が終わって疲れている人であるかのようにベッドにダイブしてしまったものの、そうではない。むしろ、
ばしっ。ぼふっ。
バタ足を練習してるみたいに足をばたばたさせてしまうほど元気だ。あ、こんなふうにひざから下だけをばたばたさせてもバタ足はできるようにならないけどね。
カチッ。
これは、私がベッドに取り付けられているかもしれない、ベッドを壊すボタンを押した音じゃない。カーテンの向こうの住人が立てた音だ。シャーペンを机に押しつけて芯をしまったってとこだろう。
“うるせぇよ”っていう忠告の意味。
普段なら反省しておとなしくするけど、でも。今日はいいことがあったんだ。
ぱふべしばしぼふぱふべしばしぼふ――。
嬉しさがこみあげてきてそんなことをくりかえしていると自然と声がついてくる。
「わーあーあーあ!」
「あーあーあーあーさっきからなんなんだよ!」
カーテンの向こうから聞こえてきたのはいらついた声。
あ、これはやばい、と思った瞬間。
カーテンがしゃっという軽い音とともに開いて、いらついた声が正体を現した。
「よっ、日和。勉強はかどってる?」
友好的な関係を築くため、テディベアをにぎっていない右手をあげてみる。
「あぁ、小春のおかげではかどってるよ」
その作戦を裏切るように返ってきたのは、ピーマンの肉詰めみたいにぎゅうぎゅうに皮肉を詰めこんだ台詞だった。
カーテンで半分に仕切られていない12畳の子ども部屋に険悪な雰囲気が
負けるもんか!
「今日ね、
「それはよかったな。あいつも忙しいんだから――」
「忙しいって言ったって、怜くんは日和と違って受験しないで――」
「お前みたいなやつにかまってる暇はないってこ――」
「でも怜くんの方から話しかけてきてくれたん――」
「もうイワシのこと好きなら告っちゃえよ!」
今、私たちは同じことを思っているだろう。
――人の話を最後まで聞け!
どちらが先に手を出したのかはわからなかった。なぐったりけったりなんでもありの兄妹げんか。ほこりが舞うのも気にせずに、お互いを攻撃しまくった。
「ご飯よー」
というのんびりしたお母さんの声が聞こえた頃には、日和の
「こうやって妹とけんかするとかいう言い訳を作って勉強から逃げてるんでしょ!」
くやしかったから、捨て台詞を吐いてダイニングに向かってやった。
私、
このことを知ってるのは私と日和だけなんだけど、今、日和に教えたことを心から後悔してる。あいつ、覚えてろよ。
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