第11話 VSヨルムンガンド4

 まずは前と同じように俺とレイラ中佐に注意を向けなければならない。


「どうしますかレイラ中佐」

「あまり額に攻撃しすぎて警戒されすぎるのは避けたいな。とりあえず私が突っ込むからその隙にソードミストで肉を斬ってみてくれるか?」

「わかりました。でもあまり深くは斬れませんよ」

「構わんさ」


 剣のリーチの問題であまりダメージは与えられなさそうだが、レイラ中佐がそれでもいいと言ったのでとりあえずやってみる。

 一度足を止めるとレイラ中佐が先行する。ヨルムンガンドは単身突っ込んだレイラ中佐に狙いを定めた。

 レイラ中佐とヨルムンガンドはまだ若干距離がある。この距離ではレイラ中佐に攻撃手段は無いが、ヨルムンガンドにはあった。

 先程よりも少量の毒液がレイラ中佐を襲う。それをレイラ中佐はかなり大げさに回避した。

 それを追うようにヨルムンガンドの視界が若干横を向く。

 俺は再び走り出した。視線が逸れた隙に接近する。

 この距離なら届く!

 剣に意識を向け表面の硬い鱗をすり抜けるように斬る。横に振った剣は肉だけを斬る感触を手に伝えてくる。

 剣を振り抜くと同時にヨルムンガンドの頭部が俺を押しつぶそうと迫ってきた。咄嗟に横に飛びギリギリでなんとか回避する。

 転がりつつ顔を上げるとレイラ中佐が瞳に剣を突き刺していた。

 レイラ中佐の剣が左目に深々と刺さりヨルムンガンドの頭が暴れる。

 剣を握っていたレイラ中佐は剣を放したがその勢いのまま大きく吹き飛んだ。


「レイラ中佐!!」


 地面を勢いよく転がるレイラ中佐に駆け寄る。


「大丈夫だ、受け身はしっかりとった。それよりも見てみろ―――――」


 レイラ中佐に言われヨルムンガンドに視線を戻すと、左目に刺さっていた剣が折れていた。


「チラッと見えたが、あいつが目を閉じる時に折れたようだ。私の剣もラクリィ達の程ではないがかなりの業物なんだがな」

「どこもかしこもどれだけ硬いんだ・・・・・・。レイラ中佐はこの後どうやって戦うんですか?」

「とりあえず注意はしっかり引けたから回避に専念するさ。額への攻撃はお前に負担をかけてしまうが・・・・・・」

「気にしないでください。アロマとサレンさんが鱗さえ破壊してくれればなんとかしますよ」


 前回は2人で破壊出来ていたのでなんとかなるとは思う。無理でもソードミストを使えば俺のみではあるが直接攻撃もできる。


「頼もしいな。では注意はなるべく私が集めよう」


 ヨルムンガンドは俺達2人を敵視しているようだが、レイラ中佐が俺よりも前気味に出れば多少は俺からも意識が外れるだろう。ここはレイラ中佐を信じて任せることにする。


「では頼んだぞ」

「はい! 任せてください」


 レイラ中佐が前に出ると同時にヨルムンガンドが攻撃を開始する。

 叩きつけ、薙ぎ払い、毒液の攻撃がレイラ中佐の動きに合わせて飛んでくる。それを回避できる距離感を保ちながら避けている。ヨルムンガンドにこれ以上攻撃択が無ければ、しばらくは大丈夫だろう。

 時々俺へも攻撃してくるが大したことは無い。大半をレイラ中佐が引き付けてくれている。

 ちらりと後ろを向くとサレンさんが構えに入っている。完全に決まるタイミングを狙ってるのだろう。

 しばらく状況が動かなかったが、ヨルムンガンドがしびれを切らしたのか身を大きくあげ思い切り叩きつけていた。

 動作が長かったためレイラ中佐は危なげなく避ける。

 叩きつけの衝撃で地面が大きく揺れ岩々が舞う。

 視界が若干悪くなるなかヨルムンガンドの額に向け風が飛んだ。

 サレンさんが放った一撃は、狙い通り額に命中し硬い鱗を削る。

 ヨルムンガンドは雄たけびを上げるが、体を使った質量のある叩きつけをしたせいで、体が若干地面にめり込んでいた。


「フラッシュピアス!」


 直ぐに動けないヨルムンガンドに対してアロマが間入れず魔法を放つ。

 フラッシュピアスは前回使ったフラッシュバーストと違い貫通力に特化した魔法だ。

 ヨルムンガンドに向けて飛んだフラッシュピアスは正確にサレンさんが鱗を削った場所に直撃する。

 前回よりも鱗が剥がれた箇所は少ないが、若干肉まで削っている。

 これを逃すわけにはいかない。俺は剣を真っすぐ構え刺突の構えをとった。

 ヨルムンガンドは必死に起き上がろうとするが、舞い上がり降り注いだ岩が邪魔をして動きが遅い。

 十分な助走をつけ額まで飛び上がる。


「届けぇぇぇ!!」


 突き出した剣は厚い肉を貫き進んでいく。

 そして剣の半分ほどが完全に埋まったあたりで何かに弾かれるように止まってしまった。

 なんだ!? 完全に剣が弾かれた・・・・・・。

 手にかなりのしびれがきてるが、気にしている暇はないと咄嗟に思い力に任せて雑に周りの肉を切り裂いた。

 そこから現れたのは黒く輝く宝石のようなものだった。

 間違いない、これが核だ!

 そのまま核を破壊しようと剣を構えたが、流石にヨルムンガンドが起き上がってしまい慌てて飛び降りた。


「間違いない、あれが核だ! あれを破壊すれば私達の勝ちだぞ!」


 核がむき出しになり今まで以上の怒りを放っているヨルムンガンドに対し、怯むことなく声を上げるレイラ中佐。

 だが状況は最悪の方向へと向かっていた。


「レイラ待って! 大変なことになったわ!」

「どうし――――――」


 サレンさんの焦った声で振り返ったレイラ中佐は言葉を失った。それは俺もアロマも同様に。

 俺達の後ろからはメリユース王国の軍とは違った軍服を着た兵士たちが剣を抜きこちらに迫ってきていた。

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