第12話 混戦
状況は最悪と言えた。
前方には怒り狂ったヨルムンガンド。後方にはシノレフ王国の兵士が推定だが100はいると見える。
対してこちらは4人。しかもレイラ中佐は剣を失って戦うすべを持たない。
仮に片方を相手するならヨルムンガンドよりも兵士の方が楽だ。それなりの実力がある奴がいたとしても、この4人であれば勝てる自信はあった。
考えてる間にも状況は動き出す。
「レイラ! とりあえず何人か斬りますので剣を奪いなさい。 状況の打開はそれからです!」
「すまないが任せた! 少し耐えれば後方でヨルムンガンドに攻撃してる部隊が加勢しに来るだろう。そこからは何人かの兵士を戻らせ応援を呼ぶ!」
サレンさんが剣を構え先頭にいる兵士を3人斬り伏せた。すかさずレイラ中佐が剣を拾う。
「アロマ、俺達も行くぞ!」
「カバーは任せて!」
俺とアロマはお互いをカバー出来る距離を保ちながら斬りこむ。
並の兵士ならばてこずることは無い。防具も何もかもを無視して一撃で仕留める。
なるべく早く自分に向かってくる敵を処理してアロマに向かう敵も斬っていく。
「らっくん!?」
アロマが驚いたように声を出すが反応はせずに剣を構える。
対災害部隊にいたアロマは人間をほとんど殺したことが無い。そんなアロマに闇はなるべく背負わせたくなかった。
とはいえ俺自身いつまでたっても慣れる気がしない。どうして同じ人間同士でこんなこと・・・・・・。
「レイラ中佐!加勢しに来ました」
恐らくヨルムンガンドの後方にいた部隊だろう。
こちらの人数が増えてとりあえず負担が減った。これならいけるかもしれない。
俺は攻めに転じようと踏み込んだ。
「らっくん危ない!!」
アロマの声と同時に元居た場所から一瞬で移動していた。それと同時に後ろで地響きがする。
振り返ると俺の背中に触れるアロマとヨルムンガンドの頭部が見えた。
どうやらアロマに人を殺させまいとしているうちにヨルムンガンドの存在を忘れていたらしい。完全に不意を付かれていたところをアロマがモメントジャンプで俺ごと飛ばしてくれたようだ。
「ごめんアロマ。助かった」
「気にしないで。それよりもらっくん、急にどうしたの? いきなり視野が狭くなったみたいな――――――」
アロマに指摘され思わず顔を逸らす。
「もしかして、わたしにシノレフの兵士を斬らせたくないとか思ってる」
「それは・・・・・・」
「心配してくれてありがとう。でもね、わたしはらっくんに何かあったらと思うとそれが一番辛いよ。そんなことになるくらいなら、わたしはどんな相手とだって戦う覚悟がある」
アロマの顔は真剣だった。それは人だろうと斬ることをためらわないと本気で思っている顔。
それを見て思ってしまった、俺は何様なのだと。
アロマの心は俺がそんな心配する必要ないほど強い。俺が守るべきなのはアロマの心ではない、それを間違えてはいけない。戦いの中命の危機があるときに全力で守ればいいのだ。
「ごめんアロマ。背中は頼むぞ」
「うん! 任せて!」
俺達は背中を合わせてくる敵を斬り伏せる。
シノレフの兵士はどんどんその数が増えていっていた。気づけば10倍以上もその数が増えている。
だがメリユースの兵も徐々に合流しつつあり戦場は大混戦になっていた。
元々ヨルムンガンドに最も近い距離にいたせいでヨルムンガンドからの攻撃も激しい。だがそれはアロマの合図と同時にモメントジャンプで回避。再使用可能までアロマのカバーに徹する。
地面に転がる死体も増えるためこまめに移動しながら戦わなくてはならない。
戦いが始まってからどのくらい経っただろうか。
ヨルムンガンドからの攻撃躱しつつ迫りくる兵士を捌く。そんな戦い方をしていれば徐々に疲れも溜まってくる。
慣れていないアロマは疲れからか一撃で兵士を倒せなくなってきた。
「くそ! キリが無いな」
「はぁはぁ。流石に、きつい。――――――痛った!」
アロマの小さい悲鳴に振り返ると肩から血を流していた。
「アロマ!?」
「だ、大丈夫。このくらいならすぐ直るから」
確かに傷はすぐ治っているが、段々と攻撃をもらう回数が増えている。
それにグラムの能力は血液などを作り出すのも早くなるが、それにも限界がある。
あまり傷を負いすぎると、回復に身体がついてこれずにやがて動けなくなってしまう。
それを証明するかのようにアロマの顔色はかなり悪い。
流石にカバーが追い付かなくなってきたな。せめてヨルムンガンドの攻撃がなければ・・・・・・。
なんとかここまで戦っていたが、限界は唐突にきた。
「――――――ご、めん。らっくん」
ついにアロマが膝をついた。好機と見た兵士が一斉に斬りかかってくる。
「させるかぁ!!」
気合で身体を動かし薙ぎ払う。
だがそんなことは関係ないとばかりにヨルムンガンドまで攻撃をしてくる。
「させ、ない!」
朦朧とした意識の中アロマがどうにかモメントジャンプが使い紙一重で回避する。
「ラクリィ! アロマ!」
飛んだ先でどうにかレイラ中佐のことを確認できた。横にはサレンさんもいる。
俺はアロマを抱えて2人に合流した。
「アロマ! ラクリィ、アロマは大丈夫なのか!?」
「命に別状はないと思います。でもこれ以上は――――――」
「とにかく一度引くぞ! こちらの兵士もなんとか合流しつつある。しばらくはなんとかなるだろう」
「殿は俺が。レイラ中佐はアロマを頼みます」
レイラ中佐はやはり武器に問題がある。サレンさんなら突破力は申し分ないだろう。なら後ろは俺が何としても守る。
考えている暇はない。アロマをレイラ中佐に預ける。
サレンさんがすぐに道を作る。早くしなくてはまた兵士たちに埋められてしまう。
悲鳴をあげる身体を奮い立たせ全力で走る。
「まて! よくも仲間を!」
ここにきて兵士が斬りこんできた。咄嗟にかばうように止める。
一瞬足が止まった隙に俺は再び囲まれてしまった。
「ラクリィ!!」
「先に行ってください! アロマをお願いします」
「らっくん・・・・・・。らっくん!」
アロマの声が聞こえる。かなり焦ってるようだ。
「大丈夫だ! 後で必ず追い付く!」
そう約束した。もちろん実行するつもりだ。
だが俺は気付いていなかった。そして
「――――――え?」
アロマの呟きが何故か鮮明に聞こえた。それとともに身体にありえないほどの衝撃が走る。
浮遊感。遠ざかる意識の中どこかへ落ちていく感覚だけがあった。
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