第10話 VSヨルムンガンド3
シノレフ王国はメリユース王国の北側に位置している国だ。どこからかヨルムンガンドの情報を手に入れて、これに乗じて攻めてきたのだろう。
だがメリユース王国から最も近いのはレホラ王国だ。シノレフ王国がこの情報を持っていてレホラ王国が持っていないということはないだろう。
だが一番に攻めて来たのはシノレフだ。偶然か?
まあそんなことを考えていてもしょうがない。レイラ中佐はどういう判断をするんだろう。
「全く、忌々しい奴らだ。とりあえず国に戻り増援を頼め。シノレフ軍との戦闘指揮は任せる、私達は全力でヨルムンガンドをどうにかする」
「今現状こちらにいる兵の割り当てはどうしますか?」
「半分をシノレフ軍との戦闘に回せ。ここで負ければ戦争が一気に苦しくなる、それだけは避けなくてはならない」
「――――――わかりました。どうかご武運を」
「ああ、任せろ」
どうやら今話していたのはここの指揮官だったようだ。レイラ中佐から伝えられたことを的確に指示している。
先程までどうしたらいいか分からず混乱していた兵士たちが指示通り動き始めた。こう見るとやはりレイラ中佐は凄い。
「さて、聞いていただろ? かなり面倒くさい事態になった。あまり時間が無い、直ぐにでもこの後のことを決める」
軽く話し合った結果、もう一度額への攻撃で反応を見ることになった。もし同様の行動をヨルムンガンドがとったら額への全力攻撃で硬い鱗と肉を削ぎ核の有無を確認する。シンプルな作戦だがそれ以外に取れる手段がないことも事実だ。
「決めることも決めた。私はシノレフ軍とのことでまだ話し合うこともあるから再戦闘は明後日にしようと思う。それまでは体を休めてくれ」
そう言ってレイラ中佐は兵士たちの元へ歩いて行った。
出来ることもないのでレイラ中佐の言葉通り体を休めることにする。
部屋で横になっていると誰かが扉をノックした。
「どうぞ」
「らっくん入るね」
どうやらアロマだったようだ。
「どうした、何かあったのか?」
「ううん。ただ話に来ただけだよ」
やることもなく暇だったのでそのままアロマと1時間ほど他愛ない話をした。
アロマは会話中普通に笑っていたが、本当は不安だったのかもしれないと何となく思った。
例え額に核があったとしても、ヨルムンガンドに本能ではない知性があれば必ず守ろうとするだろうし、攻撃も苛烈になってくるだろう。ただでさえ顔に向けて攻めなければいけないのだ。危険は普通に戦うのとは比にならないだろう。
俺は帰ろうと立ち上がったアロマに声を掛けた。
「もしアロマが危なくなったら絶対に俺が守るよ」
俺の言葉にアロマは一瞬きょとんとした後優しく笑った。
「ふふ、わたしは大丈夫だよ。いざとなったらモメントジャンプで逃げるし、多少怪我してもグラムが直してくれるから」
アロマは腰に掛けたグラムを撫でながら言う。
確かにグラムの能力があれば相当な怪我や即死でない限りは大丈夫だ。それにアロマの異能があれば致命傷も避けやすい。
それでも万が一があれば自分が縦になってもアロマを守ろうと俺は思っていた。
「わたしも――――――」
アロマは扉の方を向いたまま話し出した。
「――――――わたしが、必ずらっくんを守るから。絶対に・・・・・・」
「アロマ・・・・・・」
アロマの声色はいつになく真剣だった。俺は言葉が出てこない。
数秒の沈黙の後、アロマは何事もなかったように笑って振り返った。
「今日はありがとね! 明後日頑張って無事に終えてまた緑流亭に行こうね」
「ああ、そうだな」
つられて笑った俺を見てアロマは嬉しそうに自分の部屋に戻っていった。
――――――――――――――――――――
俺達は再びヨルムンガンドの元までやってきた。
まだ核の場所が額だと確定はしていなかったので、俺達が休んでいた時も戦闘は継続している。
この3日の戦闘で大地の裂け目の周辺はかなり荒れ果てていた。周囲の様子とは裏腹にヨルムンガンドには目立った傷は無い。
「できれば今日で決着を着けたいところだな」
「そうね。あまりあの子達には危険な目にはあって欲しくないですし」
「お前はあの2人を弟と妹のように可愛がっているからな」
レイラ中佐とサレンさんが何かを話して笑っているが小声でよく聞こえなかった。アロマも不思議そうな顔をしている。
「それじゃあ始めようか。サレン頼む」
「任されました。――――――抜刀風迅閃!」
サレンさんの攻撃の音でこちらに気付いたヨルムンガンドが吠えようとしたが、咄嗟に回避行動をとった。
「やはり・・・・・・もし核ではないとしても何かあるな」
「確かめてみればわかるでしょう」
サレンさんの攻撃を避けたヨルムンガンドはこないだのように足は止めず、怒り狂って毒液を飛ばしてきた。
かなりの量だったが、サレンさんが風魔法で吹き飛ばす。
「では一昨日同様私とラクリィで注意を引く。その隙にサレンとアロマはなるべく強い攻撃を額に当ててくれ。どちらかの攻撃が当たったタイミングで全員で重たい一撃を与え鱗と肉を削ぎ落すぞ!」
レイラ中佐の指示がヨルムンガンドとの2回目の戦闘開始の合図となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます